知の逆転

書影

著 者:吉成真由美
出版社:NHK出版
出版日:2012年12月10日 第1刷発行 2013年5月20日 第11刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 DNAの二重らせんを解明したジェームズ・ワトソン、「人工知能の父」と呼ばれるマービン・ミンスキー、ニューヨーク・タイムズに「生きている人の中でおそらく最も重要な知識人」と評された言語学者ノーム・チョムスキー、「誰も知らないインターネット上最大の会社」アカマイ社のトム・レイトン、映画「レナードの朝」の原著者で神経学者のオリバー・サックス、『銃・病原菌・鉄』で人類と文明の発展について新たな知見を表したジャレド・ダイアモンド。現代の「叡智」とも言える6人へのインタビュー集。

 「知の逆転」というタイトルは、この6人について「限りなく真実を追い求め、学問の常識を逆転させた」という評価をして付けたものらしい。「常識を逆転」という評価には首肯しかねるが、「真実を追い求め」の部分は、確かにそうだと思った。この人たちは「自ら考えそれを検証する」ということを実践してきた。そのことが自信となって表れている。

 私はコンピュータ関連の仕事をしていることもあって、人口知能学者のマービン・ミンスキーと、アカマイ社のトム・レイトンの2人のインタビューが、特に印象に残った。

 ミンスキー氏は、事故後の福島原子力発電所でロボットに作業させることができなかったことに、深い失望と憤りを感じたそうだ。30年前のスリーマイル島事故の後に、「たとえ知能ロボットを作ることができなくても、リモコン操作できるロボットを..」という記事を書いた彼は、30年後に同じ事態に遭遇した。「チェスには勝ててもドアさえ開けられないコンピュータ」に、何の意味があるのか?というわけだ。

 レイトン氏のアカマイ社は、インターネット上の効率的な経路決定の技術を持っていて、グーグル、ヤフーなどの主要なサーチ・ポータルサイトのすべてと、メジャーなサイトの多くを顧客に持っている。推計ではインターネットの総情報量の15~30%が、アカマイ社を通して流れているらしい。

 「悪い奴になるほうがいい奴になるより簡単」というご時世で、セキュリティの攻防は熾烈を極めている。インタビューは、そのことについて詳しいのだけれど、私は別のところに目が留まった。それは、以前に読んだ「理系の子」の舞台となった、インテル国際学生科学フェア(ISEF)に、レイトン氏も出場した、という一文だ。少し誇張を許していただければ、その時の氏の経験が今のインターネットを支えている、と言える。

 6人全員に「特に若い人たちにどのような本を薦めますか」という、同じ質問をしている。どのような意図を持った質問なのか分からないが、それまでのインタビューとの脈絡がなく唐突な感じだ。ただその答え方が、それぞれの人の「素顔」が垣間見られるようで、意外とナイスな質問だったかもしれない。

  ナイスと言えば、インタビュアーを務めた著者も、いい仕事をしていると思った。「そんなのは当然」なのかも知れないけれど、しっかり準備をして臨んでいるようだった。さらに、このインタビューができることを喜んでいるようにも感じたけれど、さすがにそれは深読みが過ぎるか。

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