著 者:中山七里
出版社:宝島社
出版日:2012年5月24日 第1刷 2013年1月2日 第3刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
ベストセラー「さよならドビュッシー」の主人公の香月遥の祖父、香月玄太郎が主人公。本書は「さよならドビュッシー」の2年前、玄太郎が脳梗塞から緊急手術で一命を取り留める出来事から、「さよならドビュッシー」の物語が始まる当日までを、5つの短編によって描く。
玄太郎は、脳梗塞の後遺症によって「要介護」となる。肉体の衰えは精神の衰えにもつながりがちだけれど、玄太郎に関して、それはまったく当てはまらない。本書の冒頭は「こんな不味いメシが食えるかああっ」という、玄太郎の罵声から始まる。我ままを言っているのではない。料亭の食品偽装を見抜いての激高だ。ダメなものダメ、不正や手抜きを許せない、そういう性格なのだ。
何かある度に激高して怒鳴り散らす。最近はこんなに遠慮のない罵声を聞く機会がないので、最初は読んでいて居心地が悪い思いをしたが、その内なんだか爽快感すら感じるようなった。それは「こんなに言いたいことを言えたら気持ちいいだろうなぁ」ということはもちろんあるが、それだけではなく、玄太郎の言っていることが圧倒的に正しく、それが相手のためにもなっていることが多いからだろう。
そんな玄太郎が、建築中の家での密室殺人や、銀行強盗、年金の不正受給などの「事件」に遭遇する。玄太郎は、己の眼力を頼りに一代で財産を築いた資産家。その眼力が、先入観に惑わされることなく、周りの者が見えないモノを見逃さず、真実を見抜いて「事件」を解決に導く。
「安楽椅子探偵」ならぬ「車イス探偵」の玄太郎の推理は、なかなか切れ味が鋭い。物語の記述の中に犯人探しのカギが隠されているので、ミステリーとしても完成度が高い。人情話が少し織り交ぜてあるので謎解きは置いて読み物としても楽しめる。
最後に、「前奏曲」というタイトルについて。単純に「前日譚」というだけではなく、この物語は「さよならドビュッシー」と、それから始まる「岬洋介シリーズ」への導入の役割をキッチリと果たしている。もちろん岬洋介その人も登場する。
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