著 者:水上勉
出版社:新潮社
出版日:1982年8月25日 発行 1998年5月30日 17刷
評 価:☆☆☆☆(説明)
本好きのためのSNS「本カフェ」の読書会の8月の指定図書。
「土を喰う日々」。何の事前知識もなく目にしたこのタイトルから、私が受けた第一印象は、何と言っても土を喰うわけだから「貧しさ苦しさを耐え忍んだ暮らし」「味気無さ」、それからなぜか「力強さ」だった。それにしては表紙のイラストの野菜たちが瑞々しくて、私の印象とはアンバランスなのだけれど。
本書は、作家である著者が、軽井沢の山荘での1年間に、月ごとに何度か自分で拵えた料理について書いたエッセイ。もともと「ミセス」という月刊女性誌に昭和53年に掲載されたものらしい。著者は十代の頃に禅宗の寺で「典座」、つまり食事役を務めたことがあり、披瀝された料理の数々はその時の修行の経験が生きている。
著者の簡にして要を得て紹介する料理が美味そうだ。軽井沢と言えば避暑地で有名だけれど、冬場は凍てつく寒さで、著者の言葉を借りれば「万物枯死の世界」となる。だから1月から始まる本書は、最初の頃は「あるものを工夫して」となる。正直に言って、そんなに食指が動かない。
しかし、芽吹きの季節である4月ごろからの料理は本当に美味そうだ。4月は山菜、5月はたけのこ、6月は梅、7月になれば野菜が豊富に採れる、8月は豆腐、9月は松茸、10月は木の実、11月は栗。読み返しながらまとめてみると、私たちがいかに「自然の恵み」に恵まれているかが分かる。
読み終わってみると、本書に対する印象がガラっと変わったことに気が付く。「味気ない」なんてとんでもない(思い返すと「砂を咬むような」の印象と混じってしまったようだけれど)。豊穣で色彩豊かな味わいが感じられる。
「土を喰う」とは、食材は土が育んだもので、それを土から摘みとって食べる、ということはまさに土を喰うことだ、という意味。モノを大切に扱う心や、客をもてなす心、周囲に感謝する心、自分を律する心、そういった心を持った「生き方」が、著者の料理と対峙する姿勢ににじみ出ている。
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