著 者:鎌田實
出版社:ポプラ社
出版日:2014年3月5日 第1刷発行 3月22日 第2刷
評 価:☆☆☆(説明)
著者は諏訪中央病院の院長を永く務め、現在は名誉院長。長期にわたって地域医療に尽力した方で、長野県の男女とも長寿日本一との関連でお名前を伺っていたこともあり、「尊敬できる人物」というイメージを持っていた。その著書ということで手に取って見た。
タイトルが表すことは次のとおり。右肩上がりの経済のなかで身につけた「上り坂」を生きる思想はもう古い。日本はもう下り坂に差し掛かっている。だからと言って「もうダメだ」と投げやりになることなく、ちょっとした良いことを見つけて実行しよう。
政府は「アベノミクス」で日本経済の回復を目論んでいて、庶民はその果実を受け取るまでの間は痛みを甘受すべし、という雰囲気の中では、一種の「逃げ道」のような考え方だ。しかし私はこれは卓見だと思う。楽観的に構え、つながりを大切にし..といった著者の考えは、私たちが自分の考えで実行できる。これからの生き方の参考にしたい。
それは「楽観力」「回転力」「潜在力」「見透す力」「悲しむ力」「突破する力」という言葉で表されている。特に印象に残ったのは「回転力」。暖かい心遣いやお金など他人から受けたものを、誰か他に人に渡すことを指している。これによって善意やお金がグルグルと回る。善意の回転は「絆」という言葉を、お金の回転は「経済」を、抽象的な2つの言葉の意味を、具体的な行動に落とし込んだ明察だと思う。
ちょっと意外に思ったこともあった。本書の多くの部分がチェルノブイリと福島の原発事故と、その後の経過のことに割かれている。著者はチェルノブイリの放射能汚染地域にも、福島の支援にも通い続けている。チェルノブイリでも福島でも、原発事故という「絶望」の中で、暖かい人の絆も逞しく生きる人々もいる。だから二つの原発事故のレポートは、本書のテーマとの間に齟齬はない。しかし、その力の入れようを考えると原発事故の、特に3年経過した福島の現状を広く伝えたいという意図があったのだと思う。
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