著 者:松田卓也
出版社:廣済堂出版
出版日:2013年1月1日 第1版第1刷 8月5日 第3刷
評 価:☆☆☆☆(説明)
友達のFacebookの投稿で「2045年問題」を知って、とても興味があったので読んでみた。
「2045年問題」とは何か?コンピュータが人類全体の能力を超え、それ以降の歴史が予測できなくなる「技術的特異点(シンギュラリティ)」を、2045年に迎えるという予測があり、そのことがもたらすであろう問題を「2045年問題」と呼んでいる。欧米では研究が進んでいるが、日本ではこの問題について述べる研究者は、宇宙物理学者の著者を除けばほぼ皆無らしい。
本書は、コンピュータの黎明期から書き起こして、スーパーコンピュータの技術を解説し、インターフェイスや人工知能の開発の最前線を伝えた後、「技術的特異点」の前後を展望する。私たちがすべき対応の話もあるが、それは必ずしも明るい未来を約束しない。
世界初のコンピュータとされるのは、1946年の「エニアック(ENIAC)」。それから約70年で到達した一つのシンボルが、2011年に世界で第1位となった、スーパーコンピュータの「京」。「京」は、1秒間に1京回の計算ができる。それは著者が20年前に使っていたスーパーコンピュータの1000万倍の性能。問題の2045年までは30年ある。
それでも計算能力の向上だけであれば、問題はないのかもしれない。しかし同時並行的に「人工知能」の開発が進むと話が違う。人間の知的活動をコンピュータが代替し、自らのプログラムの更新まで行うようになれば、コンピュータは独自の進化を遂げるようになる。それも人間が更新する何倍も速く正確に。それは人類にとって吉か凶か?それが予測できない。いや吉と考えられる理由は何もない。その不穏な予感が「2045年問題」の核心だと思う。
詳しくは本書を読んでもらいたいが、未来学者たちが2045年以降に起きるかも?とするのは、かなりショッキングな出来事だ。しかしそれは2045年に突然起きることではなく、徐々に進行する。私はむしろこの徐々に起きる変化の方が気がかりだ。上に「人間の知的活動をコンピュータが代替し」と、さらりと書いたが、つまりは人間の仕事のほとんどをコンピュータが代替する、もっと端的に言えば「奪われる」ことになる。
そもそも、コンピュータ技術は「人間を楽にする」ためのもので、人間の仕事を代替するのはその目的に適っている。それにも関わらず「奪われる」などとネガティブな表現をするのは、今の社会が「仕事がなければお金がもらえない」「お金がなければ生活できない」構造になっているからだ。
未来が、人間が仕事から解放された「ユートピア」に向かうのか、生きる糧を奪われた「ディストピア」となるのか。それは社会の「仕事」と「お金」と「生活」のあり方によって決まる。今のままでは見通しは暗いと言わざるを得ない。
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WIREDスペシャルページ「2045年、人類はトランセンデンスする?」
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