蜩の記

書影

著 者:葉室麒
出版社:祥伝社
出版日:2013年11月10日 初版第1刷 2014年9月20日 第14刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 2011年下半期の直木賞受賞作。昨年の春には役所広司さんと岡田准一さんの主演で映画化もされた。友人から借りて読んだ。

 時代は江戸時代後期1800年代初頭、舞台は九州豊後国の羽根藩。主人公は藩士の檀野庄三郎、21歳。些細な原因で城中で刃傷沙汰を起こし、死罪になるところを罪を免じられて、ある特命を受ける。それが、幽閉中の元郡奉行、戸田秋谷の監視だ。

 秋谷は、藩主の側室との密通という大不祥事を7年前に引き起こし、本来なら「家禄没収のうえ切腹」のところだが、家譜(藩の記録)編纂という役目を負って幽閉となっている。家譜編纂には厳密な期限が付いている。なんと秋谷には、10年後の8月8日に切腹、と沙汰が付いていた。つまり、3年後には死なねばならない。

 「主人公は藩士の檀野庄三郎」と書いたが、この物語の主役は秋谷だ。秋谷を庄三郎の視点から描いている。自らの命に期限を付けられた中で、人はどれだけ冷静に真摯に、お役目に家族に周囲の人々と、向き合うことができるのか?

 近国佐賀藩の山本常朝の「葉隠」の有名な一節「武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり」を思い出す。この後には、毎朝毎夕に改めて死ぬ覚悟をしていれば武士道の境地にする..という言葉が続く。まさに秋谷は10年間の長きにわたって「死ぬ覚悟」を続けた。

 秋谷の運命は初めに明らかにされるので、物語は「死」に向かっていくしかない。それでも暗くならないのは、抑え気味の淡々とした著者の書きぶりが、清涼な雰囲気を醸すことと、「あるかなきかの微笑み」を湛える秋谷の、静かな凛とした覚悟が伝わってくるからだ。その覚悟のほどに最後には涙が出た。

 全く違うジャンルの作品のことも思い出した。それは、有川浩さんのラブストーリー。江戸時代のこんな生真面目な武士の物語に、著者はラブストーリーを仕込んでいる。カッコいいおっさんの恋まである。

 映画「蜩の記」公式サイト

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