著 者:浅田次郎
出版社:新潮社
出版日:2009年5月1日 発行 2014年10月5日 4刷
評 価:☆☆☆☆(説明)
著者の本を読むのは「地下鉄(メトロ)に乗って」「世の中それほど不公平じゃない」に続いて3作品目。まだそれだけ。友達から借りて読んだ。
江戸から明治になって数年という時代を舞台にした、短編が6編収められた短編集。読んでいて「そう言えばこの時代はあまり物語になってないな」と思った。
6編を簡単に。「椿寺まで」日本橋のお店の主の伴として八王子へ向かう奉公人の少年。途中で浪人の追いはぎに遭う。「函館証文」かつて戦場で書いた「命を助けてもらう代わりに千両払う」という証文の巡る物語。「西を向く侍」かつての幕府天文方の俊才だった男が、太陰暦から太陽暦への強引な切り替えに物申す。
「遠い砲音」西洋定時法(1日が24アウワーズ、その60分の1がミニウト..)に慣れない陸軍中尉の物語。「柘榴坂の仇討」井伊直弼の近習だった男が、桜田門外の変で討たれた主君の仇討を悲願とする。「五郎治殿御始末」明治維新後に藩の整理に携わった桑名藩士。藩の整理を終え、孫を連れて家族と自身の整理のために旅に出る。
とても新鮮な気持ちで読んだ。それは前述のように「この時代はあまり物語になってないな」と思ったからだ。しかし、考えてみれば「明治維新」を描く物語は少なくない。ではどうしてそう思ったか?明治の元勲を描いたものは少なくないけれど、一般の人々の暮らしを描く目線の低い物語はあまりない(と思った)からだ。
武士がその身分と共に職業もなくなり、太陽暦の採用を初めとする西洋の文化が流入し、その激変ぶりは太平洋戦争の終戦に勝るとも劣らない。例えば、旗本(殿様)が商いを始める、武家の娘が酌婦として務めなければならない、「今年は12月2日で終わり」なんてこともあった。
その激変にうまく順応できた人も、置いて行かれた人もいる。どちらの場合にもそこにはドラマがあったはず。それを丁寧にすくい取り、時にユーモラスに時に物悲しく描く。この短編集は秀作だと思う。
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