19.D・デュエイン(駆け出し)

駆け出し魔法使いとケルトの黄昏

書影

著 者:ダイアン・デュエイン 訳:田村美佐子
出版社:東京創元社
出版日:2010年10月22日 初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 東北地方太平洋沖地震発生から2日余り。報道で見る惨状と、いつもどおりの暮らしを続ける私とのギャップに戸惑いました。本の感想なんか書いていていいのか?と。しかし、募金するぐらいしかできることを思い付きませんでした。亡くなった方のご冥福をお祈り申し上げます。そして、一刻も早く元の平穏な暮らしを取り戻せるよう、祈ってやみません。

 「駆け出し魔法使い」シリーズの第4弾。異世界のニューヨークの街、深海、宇宙の涯と、これまでドンドン遠くへ、ドンドンあり得ない場所へと舞台を移してきたが、今回の舞台はアイルランド。ちょっと近いけれども、アイルランドは「妖精の国」「伝説・神話の国」。不思議なことが起きる国なんだそうだ。主人公ニータが「夜中に声がしたので外に出て行って見たら誰もいなかった」と報告すると、アイルランドに住む伯母さんが応えた「アイルランドへようこそ」

 魔法使いとしての任務に没頭するニータの身体を心配して、彼女の両親はアイルランドに住むニータの伯母のところへ、休養のためにニータを送る。しかし、ニータがアイルランドに来たのは、両親の考えには違いないが、もっと大きな意思が働いていたようだ。ニータにはアイルランドで果たすべき任務があった。そこは、魔法に満ち満ちた場所だった。

 今回の任務は、ニータだけに与えられたものではない。アイルランド中の魔法使いを総動員しての一大作戦の一員として、ニータは参加することになる。対する相手は、ニータの宿敵とも言える「孤高なる者」。彼は様々な姿をしてこの世に現れる。今回はアイルランド神話の魔神となって、魔法使いたちの前に立ちはだかる。古代の伝説の戦いの再来だ。倒せなければ世界の破滅を招く...。
 ニータが活躍する場面があまりなかったのが残念だけれど、善悪の対決の図式は分かりやすいし、スケールも大きい。シリーズの中で本書が一番ワクワクした。

 「妖精」と聞くと、背中に羽がある小さくてか細い生き物を思い浮かべがちだけれど、本書の妖精は凛々しく力強い。(「サークル・オブ・マジック」に登場した妖精もそうだった。)アイルランドの妖精には、こうした力強いものも、醜いものもいるそうだ。ちなみに著者は、ニューヨークで生まれたが、現在は本書の舞台となったアイルランド・ウィックロウ在住。

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いさましいちびの駆け出し魔法使い

書影

著 者:ダイアン・デュエイン 訳:田村美佐子
出版社:東京創元社
出版日:2009年9月25日初版
評 価:☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 「駆け出し魔法使い」シリーズ第3弾。第1巻の 「駆け出し魔法使いとはじまりの本」のレビューで、「これはあり得ないでしょ」という場面があるけれどあまり深く気にしないようにした、と書いた。それは、第2巻「駆け出し魔法使いと海の呪文」はもちろん、本書でもそうだ。前作で深海に行った魔法使いたちは、今回は遠くへと飛び出してしまう。

 登場人物は前作までと同じだが、今回の主人公はデリーン。前作までの主人公の1人ニータの妹だ。デリーンは前作で、姉のニータと友達のキットが魔法使いだという証拠をつかんだ。しかし「全部話してもらうからね」と言い置いただけで、深くは追求せずに2人に協力したのだ。仮病を使って両親の気を引いたりして。
 そう、デリーンは前作ですでに、主人公の姉を凌ぐ人気キャラクターになっていた。生意気だけれど正義感があり頭もいい少女。詳しくは第2巻を読んで欲しいが、上に書いた仮病だってまだ11才とはとても思えない周到さなのだ。そして、本書では彼女がスゴ腕のハッカーであることも判明する。恐るべしだ。

 ストーリーは、ニータの「魔法の指南書」を見て「誓約」を立ててしまったデリーンが、魔法使いになるための「最初の試練」を描く。スターウォーズの熱狂的なファンで、ライトセイバーでダースベイダーと戦うことが夢、という彼女の「最初の試練」の場は「宇宙」。
 それも地球からの観測限界である「事象の地平線」をはるかに越える遠い宇宙。そこで「力ある者たち」との遭遇と戦いが展開される。宇宙空間やターミナルの描写が、とても活き活きしている。著者はあの「スター・トレック」シリーズの著作も手がけているそうだ。なるほど。

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駆け出し魔法使いと海の呪文

書影

著 者:ダイアン・デュエイン 訳:田村美佐子
出版社:東京創元社
出版日:2009年3月13日初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 「駆け出し魔法使いとはじまりの本」に続く、シリーズ第2弾。前作のレビューで「これはあり得ない、という場面も気にしないようにした。」と書いた。今回は「あり得ない」が突き抜けている。すると不思議なことに、かえって荒唐無稽さも気にならない。すんなりとストーリーに馴染めた。

 主人公は、前作と同じくニータとキットの2人。前作の冒険を無事くぐり抜けてから2か月、正式な魔法使いになったところだ。そして、今回の舞台は海。2人は海で起きているこの世界を破滅に導く出来事を封印するために、水深5000メートルを超える深海へ向かう。しかもクジラに変身して。「あり得ない」。けれども読んでいて全く気にならなかった。
 そして、本書は前作にはなかったドラマが用意されている。詳しくは言えないが、今回ニータは、ある運命を背負うことになる。物語の後半は読者は、その運命から目が逸らせなくなってしまう。ニータはどうなるのか?キットはどうするのか?前作を大きく上回る面白さだ。

 さらに今回はもう1人ユニークなキャラクターが登場している。ニータの妹のデリーンだ。スターウォーズのファンで、ヨーダ柄のパジャマを着ている。ニータとキットの良き理解者ながら、一筋縄ではいかないクセ者。訳者あとがきには、第3弾での活躍が予告されている。目が離せない楽しみなシリーズになってきた。

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駆け出し魔法使いとはじまりの本

書影

著 者:ダイアン・デュエイン 訳:田村美佐子
出版社:東京創元社
出版日:2008年10月24日初版
評 価:☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 帯に「<ハリーポッター>の次に読む本」とある。巻末の解説によれば、本書は1983年に刊行され、それなりに支持を受けてその後シリーズ化もされた。1991年に一度日本語訳が出た後、入手困難な状態が続いていたところ、「ハリーポッターみたいな本は他にないの?」という声を受けて、再び注目されるようになった、とのことだ。
 それで、本書が「ハリーポッターみたいな本」かどうかだが、これは微妙だ。ストーリーは、自分に魔法の力があるとは思っていなかった少女が、魔法の力に目覚め、自分の意思とは別に世界の命運を掛けて、闇の盟主との戦いに巻き込まれる、というもの。この点に関しては確かに「..みたいな本」だ。
 しかし、1冊で完結していて、それも全体で数日の話なので、「ハリー」のように、友情や家族愛や運命なんていう装飾はあまりない。軽い起伏を何度か経るが、基本的には物語はまっすぐに進む。終わってからみると「あぁ、主人公たちはこういうものを得たのね」というおみやげがちょっと心に残る、そんな感じだ。

 「ハリー」みたいかどうかは置いて、本書の感想を。これは結構楽しめた。主人公たちの勇気と知恵を使った冒険譚を素直に楽しんだ。続巻が来年出るそうだが、それも読んでみてもいいカナ、と思っている。
 「これはあり得ないでしょ」という場面も何度かあるが、あまり深く気にしないようにした。ファンタジーにどこまでリアリティを求めるかは人それぞれだ。少しばかり荒唐無稽なストーリーでも、面白ければ楽しめる、という人にはオススメだ。

 最後に蛇足と知りつつ、気が付いたことを。ネタバレになるので具体的なことは極力控えるが、トールキンの作品との相関を感じた。「シルマリルの物語」の冥王、「ホビットの冒険」のドラゴン、「指輪物語」のエント、これらを思い出させる設定やエピソードがあった。
 そして、「ハリーポッターとアズカバンの囚人」の逆転時計のエピソードに似た展開も。こちらは、もし相関があるとすれば制作年代から言って、ローリング氏の方が影響を受けたことになる。この件を指してかどうかは分からないが、本書のファンの間ではそういう噂も囁かれたそうだ。

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