39.小路幸也(バンドワゴン)

オール・ユー・ニード・イズ・ラブ

著 者:小路幸也
出版社:集英社
出版日:2014年4月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「東京バンドワゴン」シリーズの第9弾。

 舞台は、東京の下町にある古本屋&カフェの「東京バンドワゴン」。前作の「フロム・ミー・トゥ・ユー」が、脇役も含めた登場人物たち11人それぞれの物語の短編集、といったスピンアウト的だった。本書は、本編に戻って前々作「レディ・マドンナ」の続編になる。

 毎回、大小のミステリーと人情話が散りばめられている。今回のミステリーは、小学校2年生の女の子が一人で絵本を売りに来たのはなぜ?その女の子を見てお客の女性が涙を流したのは?「東京バンドワゴン」とそれを営む堀田家の、過去の秘密を探るノンフィクションライター...等々。

 人情話の方は、家族の問題に関するものが多い。両親が離婚調停中の家、認知症を患ったらしい母と息子夫婦、離婚して別々に暮らす娘の想いと父の想い、それぞれの道を歩む父と息子の葛藤。暗くなりそうな話題を、さらりと暖かい解決に導いてくれる。

 もう一つ。子どもたちの成長が楽しみになってきた。巻を重ねたシリーズならではのことだ。小学生だった研人くんが中学3年生、早くも「将来」について決断することに。生まれたばかりだと思っていた、かんなちゃんと鈴花ちゃんがもう一人前の活躍。まだまだこれから楽しみだ。

 語りを務める「大ばあちゃん」ことサチさんの言葉が、胸に残ったので..

 「人は人、自分は自分と認めあう。親子だろうと家族だろうと、他人だろうとそれは同じですよね。人の生き方を認めるところから、自分の生き方というものを人間は見つけるのではないでしょうかね。自分のためだけに生きるも、誰かのためを考えて生きるも、その人の人生ですから。」

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フロム・ミー・トゥ・ユー

著 者:小路幸也
出版社:集英社
出版日:2013年4月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「東京バンドワゴン」シリーズの第8弾。

 東京の下町にある古本屋&カフェの「東京バンドワゴン」を営む堀田家の下町大家族物語。毎回ミステリー仕立ての心温まる話が楽しめる。今回は、いつもと少し趣向を変えて、堀田家だけでなく脇役の皆さんも含めた、11人が代わる代わるに語りを務める短編集。

 順番に言うと、堀田家の長男の紺さん、次男の青さんの奥さんのすずみさん、フリーライターの木島さん、紺さん奥さんの亜美さん、IT企業の社長の藤島さん、ちょうど真ん中の6人目が紺さんたちのお母さんの秋実さん。

 後半は、まずは青さん、紺さんの息子の研人くん、近所の小料理居酒屋の真奈美さん、真奈美さんのお店の板前の甲さん、最後が堀田家のおおばあちゃん(紺さんたちのおばあちゃん)のサチさん。

 堀田家には今4世代が同居している大家族。それぞれに語るべき物語がいくつもある。今回、これまでに少しだけ触れられたり、まったく語られなかったことが、まとまった形で読者に示された。読者サービスの巻と言えるだろう。

 どの話もしみじみと面白かった。でもひときわ注目されるのは、秋実さんの物語だろう。堀田家の人が心を寄せる太陽のような人。でも、数年前に亡くなったために、これまでほとんどエピソードが語られなかった。シリーズの読者なら関心があったはずだ。

 秋実さんの物語が読めて、私は大満足だ。ただ、更なる欲が出て来た。意図的にだと思うが、秋実さんの物語は10ページしかなくて、他と比べても極端に短い。長編にならないかなぁ。

 2014年に書いた前作の「レディ・マドンナ」のレビューで、「早く続巻を望む」と書いているけれど、その時すでに本書は出版されていた。その後に続編が出ているのも知らずにいた。現在第10弾まである。楽しみが増えた。

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レディ・マドンナ

著 者:小路幸也
出版社:集英社
出版日:2012年4月30日 第1刷発行 5月22日 第2刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「東京バンドワゴン」シリーズの第7弾。シリーズとしては現在のところ本書が最新刊。

 舞台は、東京の下町にある古本屋&カフェの「東京バンドワゴン」。巻を重ねるごとに新たな登場人物が加わり、その多くが後の物語でも役割を得て登場する。そうして巻頭の「登場人物相関図」では、36人もの人を紹介している。

 今回も様々な物語が同時並行で進む。例えば、往年の大女優が当主で83歳の勘一を訪ねて足繁く通ってくる、勘一のひ孫の研人が上級生を殴った、店の棚一段の本を全部買っていく客がいる...といったことだ。

 「シー・ラブズ・ユー」や「スタンド・バイ・ミー」のレビュー記事でも書いたけれど、「東京バンドワゴン」は良い嫁さんたちに支えられている。今回も、勘一の孫の紺の奥さんの亜美さんが魅せてくれた、青の奥さんのすずみさんは「男前」だった。

 ところで、上に「現在のところ本書が最新刊」と書いたけれど、実はこの言葉はこの1カ月の間にこれで3度目。「丕緒の鳥」が「十二国記」シリーズの最新刊、「パラダイス・ロスト」が「ジョーカー・ゲーム」から始まる「D機関」シリーズの最新刊だからだ。

 面白いシリーズと出会うとしばらく楽しめる。「東京バンドワゴン」もそうだった。読み切ってしまって少し寂しい。早く続巻を望む。

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オブ・ラ・ディ・オブ・ラ・ダ

著 者:小路幸也
出版社:集英社
出版日:2011年4月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「東京バンドワゴン」シリーズの第6弾。

 東京の下町にある古本屋&カフェの「東京バンドワゴン」とそこを営む堀田家を舞台としたミステリー&ホームドラマ。これまでと同じく4つの章があり、章の中で決着がつく小さな物語と、章をまたぐ大きな物語が同時並行で進む。

 例えば小さな物語は、「店の外のワゴンに何度か林檎が置かれていた」とか、「風体の穏やかでない輩が店の周りをウロウロしている」とか、「常連客の一人がストーカーされている」とか。深刻度に差はあるけれど「事件」が起きる。謎が解ければ一見落着。

 大きな物語の方は、30年前に亡くなった絵本童話作家の記念館の設立の話と、「伝説のロックンローラー」と呼ばれる我南人の曲の盗作事件。まぁこちらもうまい落としどころに落ちた感じ。

 前作のレビューで「都合のよさ」が興を削いでしまわない、ギリギリのライン、と書いたけれど、今回はそんなに「都合のよさ」を感じなかった。最終盤で「こりゃ力技だな」と思うことはあったけれど...

 改めて数えてみたら、本書までで堀田家の4年間を描いたことになる。シリーズ当初では小学校4年生だった研人くんは、中学1年生になった。ホームドラマの「無邪気+かわいい」担当だった彼が、本書では重要な役回で、何気ないセリフが「大きな物語」の伏線になっている。

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オール・マイ・ラビング

著 者:小路幸也
出版社:集英社
出版日:2010年4月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「東京バンドワゴン」シリーズの第5弾。時代を遡って今は亡きサチおばあちゃんの若いころの物語だった、第4弾の「マイ・ブルー・ヘブン」から、現代へと戻って来た。

 東京の下町にある古本屋&カフェの「東京バンドワゴン」が舞台。そこを営む堀田家の人数が、巻を重ねるごとに増える。堀田家が関わることで登場人物も増える。本書巻頭の「登場人物相関図」には、実に30人以上の名前が載っている。

 その登場人物たちが、それぞれ主人公となった大小の物語が同時並行的に進む。小さな物語とは例えば、堀田家3姉弟の長男の紺の義弟の修平君が、「道ならぬ恋」をしているらしい、とか。修平君は以前の巻でちょっとだけ登場している。こんな具合で登場人物の増加によって、物語のバリエーションの拡大につながっている。

 大きな物語は、堀田家に伝わる「とてつもないお宝」の話と、伝説のロックンローラーと呼ばれる我南人の歌手生命に関わる話。私としてはこの2つともが、これまでのシリーズの中で一番を争うトピックだと思う。そういう意味で一山超えた気がした。

 「都合のよさ」が興を削いでしまわない、ギリギリのラインまで来ている気がする。ただ、このシリーズは基本的に「昭和のホームドラマ」の路線で、「都合のよさ」もその路線の内、と考えた方がいいのかもしれない。

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マイ・ブルー・ヘブン

著 者:小路幸也
出版社:集英社
出版日:2009年4月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「東京バンドワゴン」シリーズの第4弾。今回は、これまでの3冊とは趣向を変えて、今は亡きサチおばあちゃんが主人公の番外編。時代は昭和20年。終戦の直後。サチさんがまだ18歳の時。なんとサチさんは、五条辻咲智子という名前で子爵家の一人娘だった。

 ある日咲智子は、両親から日本の未来に関わる重要な文書を託され、すぐに家を出るように言われる。両親は直後に何者かに捕らわれ、咲智子自身も拘束されそうになる。そこに居合わせたのが勘一。現在の「東京バンドワゴン」の店主だ。

 咲智子の両親を連れ去ったのも、咲智子を拘束しようとしたのもGHQらしい。託された文書を狙って、GHQだけでなく裏社会の組織からも、咲智子は追われる。勘一の父の草平が店主を務める「東京バンドワゴン」は、そんな咲智子を全面的に支援する...

 これは面白かった。前3作のどこかほのぼのしたホームドラマとは違い、サスペンス調のエンタテインメント作品になっている。本編の昔語りで登場する面々が活き活きと活躍する姿も、読者にとっては嬉しい。こんな出会いをした勘一とサチさんが、どれほど固い絆で結ばれていたことかと思う。

 サチさんが子爵家の一人娘だったことも驚きだけれど、勘一の青年時代にも目を瞠った。きっと勘一を見る目が変わると思う。「♪せまいながらもたのしいわがや」「♪We’re happy in My Blue Heaven」 ジャズの名曲「My Blue Heaven」も彩りを添える。

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スタンド・バイ・ミー

著 者:小路幸也
出版社:集英社
出版日:2008年4月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「東京バンドワゴン」「シー・ラブズ・ユー」に続く、「東京バンドワゴン」シリーズの第3弾。

 シリーズ通して舞台となっているのが、東京の下町にある古本屋&カフェの「東京バンドワゴン」。登場人物もほぼ同じ、ただしだんだんと増えている。実は「東京バンドワゴン」を営む堀田家も、結婚したり子どもが生まれたりで人数が増え、今や12人と6匹という大家族になっている。

 表紙ウラに間取り図が載っていて、これを見ると仏間にも納戸にも人が暮らしていて、家のキャパシティを越えてしまっている。さらに人が増えそうな気配もあって、どうしたものか?ということが目下の問題(のひとつ)。どうにもならんでしょ?と思っていたが....なるほど。

 章ごとに小さな事件や大きな事件が起きる。例えば「年配のご婦人が、繰り返し本を3冊並べ替えて帰る」というような小さな事件、「(ロックンロールの大スターでもある)我南人の隠し子騒動が週刊誌にすっぱ抜かれる」という大きな事件。これを堀田家+周辺の仲間の総力を挙げて解決する。ちょっと「力技」もあるけれど、あまり人を傷付けることなく、何とかまあるく収まってホッとする。

 前作「シー・ラブズ・ユー」のレビューで、「東京バンドワゴン」は、女性たちによって支えられている、ということを書いたけれど、今回は、当主の勘一の孫の青の奥さん、すずみさんが魅せてくれた。京都の「いけず」のじいさん相手に「てやんでぇ」と啖呵を切って...若い女性の「てやんでぇ」に、じいさんたちといっしょに私ものけぞった。けど、カッコよかった。

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シー・ラブズ・ユー

著 者:小路幸也
出版社:集英社
出版日:2007年5月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「東京バンドワゴン」シリーズの第2弾。舞台は前作と同じで、東京の下町にある古本屋&カフェの「東京バンドワゴン」。登場人物もほぼ同じで、章ごとに少しずつ新しい登場人物が加わっていく。

 「文化文明に関する些事諸問題なら、如何なる事でも万事解決」、これは今の店主の勘一の父が記したもので、「東京バンドワゴン」を営む堀田家の家訓で、古本屋の壁に墨文字で書かれている。家訓が実質的な意味を持つ時代ではないけれど、堀田家の面々はそれをできるだけ守ろうとしている。

 この家訓が関係するのか、堀田家には近隣の諸問題を引き寄せる何かがあるらしい。例えば、カフェに赤ちゃんが置き去りにされたり、持ち込まれた本に細工がされていたり、謎の紳士が自分で売った本を変装して買い戻しに来たり..。そして、勘一をはじめとする堀田家の面々は家訓を守って、こうした「事件」に首を突っ込んでいく。

 今回は様々な「過去」が明らかになった。例えば、店の常連のIT会社の社長の過去。それは思いのほか重いもので、社長の現在と未来まで変えてしまうものだった。勘一の息子の我南人の亡くなった妻、秋実についても語られた。それは「東京バンドワゴン」の過去、とも言えるエピソードだった。

 2冊を読んで、チラリと感じたのは、堀田家には良い嫁さんに恵まれていること。勘一の妻でこの物語の語り手のサチ、我南人の妻の秋実、我南人の息子の紺の妻の亜美、同じく我南人の息子の青の妻すずみ。「東京バンドワゴン」は、女性たちによって支えられている(男性陣もがんばってはいるけれど)。

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東京バンドワゴン

著 者:小路幸也
出版社:集英社
出版日:2006年4月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 何人かの方から「面白いよ」と教えていただいていたのだけれど、タイミングが合わなかったのか、そのまま2~3年経ってしまった。今回めでたく読むことができた。面白かった。私が好きなタイプの物語だった。

 舞台はタイトルになっている「東京バンドワゴン」という名の下町の古本屋。明治18年創業というから歴史ある老舗だ。「バンドワゴン」というのは、楽隊を乗せた行列の先頭を行く車のこと。ずいぶん「ハイカラ」なネーミングだ。(もっとも「ハイカラ」という言葉は明治の後期にできたそうだから、言葉より先んじている)

 主要な登場人物が多い。「東京バンドワゴン」を営む堀田家には、店主の勘一を筆頭に4世代8人が暮らしている。そして語り手は、勘一の亡くなった妻のサチ。だから堀田家だけで9人いることになる。個性的な面々で、勘一は80歳を目前ながら90キロはある巨漢、その息子の我南人(がなと)は60歳にして金髪の「伝説のロックンローラー」。我南人には1女2男の子どもがいて、上の2人には小学生の子どもがいる。

 物語は、「東京バンドワゴン」の周辺で起きる「小さな謎」の巡るミステリー。例えば、勘一も他の誰も覚えがない百科事典が、店の棚に置かれていて、さらに夕方には忽然と消える。また、店の蔵が何者かに侵入されたり、小学生の子どもたちが付け回されたり、といった物騒な出来事も起きる。

 全体を通しての雰囲気は「昭和のホームドラマ」だ。頑固者の家長を中心にした大家族で、お互いを思いやりながらの暮らし。しかし個性のぶつかりは、時に(というか頻繁に)衝突を起こして、ドタバタとしたドラマを生む。巻末には「あの頃」のテレビドラマへの著者の言葉が記されている。

 「LOVEだねぇ」が口癖のロックンローラー我南人は、私には内田裕也さんを思わせる。特定のモデルはいない、ということになっているようだけれど。

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