星を掬う

著 者:町田そのこ
出版社:中央公論新社
出版日:2021年10月25日 初版 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 根底に母娘や家族に対する深い理解があるのは感じとれる。それにしても..と思った本。

 本屋大賞第10位。

 主人公は芳野千鶴、29歳。パン工場で夜勤の仕事をしている。千鶴は大きな問題を抱えている。数年前に分かれた元夫の弥一が、金がなくなると千鶴の家に来て、ありったけの金を持って行ってしまう。「困るから止めて」と縋ると手加減のない平手打ちを受ける。職場のパン工場に電話してきて、千鶴の給料の前借を申し込んだりまでする。

 千鶴は、ラジオへの投稿をきっかけにして、22年前に生き別れになった母の聖子の消息を知り、さらには弥一の手から逃れるために、聖子が住んでいる共同住宅に移る。そこには聖子と母娘のように暮らす芹沢恵真と、介護福祉士の九十九彩子が住んでいた。物語は、ここでの女4人の共同生活を描く。

 千鶴にとって聖子との生き別れは「母に捨てられた」という別れだった。本当は関係ないと分かっていても、弥一のことを含む今の境遇を「母が私を捨てたから」だと思ってしまう。そして22年ぶりに自分の前にあらわれた母は、若年性認知症を患っていた。

 終盤に至るまで、キリキリと心を引き絞られるようなつらい物語だった。弥一に見つかるかもしれない恐怖から、千鶴は家から一歩も出られない。それなのに、聖子は病気のせいなのか元々の性格なのか、そんな千鶴に辛辣な言葉を浴びせる。

 それぞれにつらい経験もしている恵真と彩子は、優しく接してくれて、それなりに平穏に暮らしているけれど、時にその優しさが疎ましい千鶴は、二人をそれぞれ辛辣な言葉で詰ってしまう。ひどい目にあった人が、同じようにひどい目にあった人に、ひどい言葉を投げつける。「止めろ」という心の声を聞きながら止めることができない。心が痛む。

 感謝の気持ちや、誰かを大事に思う気持ちがあるのなら、間に合ううちに伝えよう。

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硝子の塔の殺人

著 者:知念実希人
出版社:実業之日本社
出版日:2021年8月10日 初版第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 ミステリーというジャンルへの著者の愛が感じられる本。

 本屋大賞第8位。

 雪で外界から閉ざされた山奥に建つ館で起きる連続殺人事件のミステリー。主人公は一条遊馬。館の主人である神津島太郎の専属の医師。神津島が「重大発表がある」と言って、遊馬の他にミステリー作家や編集者、自称霊能力者らを館に招待したその夜に、主人の神津島が殺された..。部屋の扉にはカギが掛かっていて他に出入口はない..。館には遊馬たちゲストが6人、主人の神津島と執事とメイドと料理人の4人の、合計10人。

 いわゆる「密室殺人」で、密室の謎を解き明かさないと犯人を突き止められない..普通ならそうなんだけれど、本書は違う。なぜなら冒頭のプロローグで遊馬が犯人であることを告白しているし、続く章でいかにして密室を作り上げたかも明らかになっている。

 これは「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」のように、犯人が最初に分かっている「倒叙ミステリー」だ。名探偵が事件の解明を進めて犯人を追い詰める心理劇。だから名探偵が必要なのだけれど、本書にも「名探偵」を名乗る、なかなか魅力的な人物が招待客の中にちゃんと配置されている。

 なかなか楽しい物語だった。閉ざされた建物の中で次々と人が殺されるのだから、緊張感が漂っているのだけれど、それが時々フッと緩むときがあって、微苦笑する。登場人物の多くがミステリーマニアだという設定で、膨大な数の実在のミステリー作品のうんちくが語られるのは、善し悪しだと思うけれど私は楽しかった。

 そうそう。上に、犯人が最初に分かっている「倒叙ミステリー」だということを書いたけれど、読み終わったらそんな説明では「全く足りない」ことが分かる。目に見えていることが真実だとは限らない。

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黒牢城

著 者:米澤穂信
出版社:角川書店
出版日:2021年6月2日 初版 11月25日 3版 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 戦国武将を描くのに、こういうやり方もあるのか、と思った本。

 2021年下半期の直木賞、2021年の山田風太郎賞受賞、4大ミステリーランキングで第1位、 本屋大賞第9位。

 時代は戦国時代、主人公は摂津国の有岡城の城主、荒木村重。村重は織田方で信長の信を得ていた武将であったが、敵対する大坂本願寺に与して謀反を起こす。やがて幾万の織田勢に取り囲まれるであろう有岡城に籠った。その有岡城に秀吉からの使者として黒田官兵衛が来る。村重は官兵衛を帰さず土牢に捕らえた。物語はこんな状況から始まる。

 この状況説明で明らかなように、本書はいわゆる「戦国モノ」。主人公の荒木村重は知名度がやや劣るけれど、この織田への謀反と官兵衛の幽閉は、信長や秀吉の物語の中での1エピソードとしてよく知られている。そこにフォーカスを当てれば、戦国エンタテインメントに仕上がりそうだ。

 しかしそれだけではなかった。本書はミステリー、その中のアームチェア・ディテクティブ(安楽椅子探偵)の変形でもある。村重が籠る有岡城内で起きる不可解な事件、例えば「監視下にあった人質が殺された。矢傷があるのに矢がどこからも見つからない」という出来事の真相を探る。

 英明な村重をしても、その謎が解けない。自ら地下に降りて囚われの官兵衛に、事件の一部始終を聞かせる...。そう、安楽椅子に座る代わりに牢につながれた官兵衛が探偵役を務める。そんなことが何度か繰り返される。背景にはもう少し大きな物語も流れている。

 最初に村重が官兵衛に事件のことを聞かせるあたりで「そういえば」と思い出した本がある。同じ著者の「折れた竜骨」という作品。本書は「戦国モノと謎解きミステリー」のハイブリッドだけれど、その本は「ファンタジーと本格推理」のハイブリッドだった。「魔法あり」の世界で「密室殺人」を描く、というチャレンジングな試みが、見事に成功していた。

 その時のような驚きは本書では感じなかったし、正直言って「これが直木賞なのかなぁ?」と思ったし、ミステリーランキングを総ナメしたのには違和感があるけれど、少し変わった設定の謎解きは楽しめた。

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正欲

著 者:朝井リョウ
出版社:新潮社
出版日:2021年3月25日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 この物語が意味することを、私たちは受け止めきれないと思った本。

 本屋大賞第4位。

 平成から令和に変わった2019年5月1日を挟んだ600日ほどの物語。主人公が複数いる群像劇。不登校の小学生の息子がいる検事の男性、イオンモールの寝具店で働く女性、学祭の実行委員会に所属する女子大学生、大手食品会社の新商品開発担当の男性、ダンスサークルに所属する男子大学生。

 検事の「息子が不登校」のような、少しうまくいかないことを全員が抱えている。イオンモールの女性は、モールの空気に自分だけが馴染めていないと感じる。女子大学生は男性の視線に拒否反応を起こしてしまう..などなど。

 一見するとバラバラな人たちのバラバラなエピソードが順々に語られる。まぁもちろんそのバラバラなエピソードは交差をし始める。

 心をかき乱す物語だった。冒頭から忌まわしい予兆を感じる。誰かの独白に続いて児童ポルノ所持の摘発事件の記事。ここに書くのをためらうような出来事が語られる。その前の独白にはこんなことが書かれている。

 自分という人間は、社会から、しっかり線を引かれるべきだと思っているので。ほっといてほしいんです。

 本書のテーマは「多様性」。特に「性的指向の多様性」。私たちは性の話をするのが苦手だ。そんな中でも性的マイノリティの権利問題などを、話し合うことができるようになった。あえてこの言葉を使うけれど「進歩」した。もちろん不十分だけれど、進歩していることに喜ばしさを感じている。本書はその喜ばしさに死角から刃を突き付ける。冒頭の独白にはこんなことも書いてある。

 だから、おめでたい顔で「みんな違ってみんないい」なんて両手を広げられても、困んるんです。

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赤と青とエスキース

著 者:青山美智子
出版社:PHP研究所
出版日:2021年11月23日 第1版第1刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。

 「このままじゃないよね?」と思って読んでいたら、やっぱりこのままじゃなかった本。

 全4章の連作短編の形式。章ごとに主人公が変わる。第1章では大学の交換留学でオーストラリアに来ている21歳の女子大生、第2章では美大を卒業した30歳の額縁職人、第3章ではかつてのアシスタントがマンガ大賞を取った漫画家の48歳の男性、第4章では輸入雑貨店に勤める51歳の女性。

 一見するとバラバラの4つの物語だけれど、一つの絵でつながっている。それは第1章で主人公をモデルにして、赤と青の絵具で描かれた「エスキース」と題された絵。エスキースとは本番の絵を描く前の「下絵」のこと。この絵が第2章以降の物語にも登場する。

 面白かった。どの章の主人公たちも不器用な方で応援したくなる。女子大生は友だちが作れない、額縁職人は美大の友人に「絵を描いてた人間が額の仕事やっててつらくなったりしない?」と言われている。漫画家は才能がある弟子に複雑な感情を持っている。輸入雑貨店の女性はパニック障害でしばらく休暇をとることに..。そして最後には少し上を向けるようになる。

 読みながら「まぁ悪くないんだけれど、これじゃ物足りない」と、ずっと思っていた。「ちょっといい話」が4つあるだけ。物語をつなぐはずの絵にも、ほとんど意味がない。という状態で第4章が終わろうとしたときに..。

 本書を読むなら必ず第4章の最後まで読んで欲しい。これまでの物語を振り返るのが楽しくなるはずだから。

 最後に。タイトルはもちろん例の赤と青の絵具で描かれた絵のことなんだけれど、それなら「赤と青エスキース」なんじゃないの?と思っていた。助詞を間違えてる?と。でも「赤と青エスキース」で合っていた。

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暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ

著 者:堀川惠子
出版社:講談社
出版日:2021年7月5日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆☆(説明)

 戦争計画にあった「ナントカナル」という言葉が虚しく聞こえた本。

 2021年第48回大佛次郎賞受賞。尊敬する人生の先輩に薦められて読んだ。

 本書は太平洋戦争の戦時下に、広島市の宇品地区にあった「陸軍船舶司令部」に焦点を当てたノンフィクション。「陸軍船舶司令部」というのは、戦時下には参謀本部の直轄となり、戦場への兵隊や軍需品の輸送や上陸を支援する組織。

 キーマンとなるのはその「船舶司令部」の2人の司令官。一人は大正8年に宇品に着任した田尻昌次。上陸用舟艇の開発や組織改革を行い、日中戦争で実際の上陸作戦を指揮し、後に「船舶の神様」と呼ばれる。もう一人は昭和15年、田尻の退任後まもなく着任した佐伯文郎。太平洋戦争中の南アジアや太平洋への兵力の輸送に必要な船舶の手配に奔走、原爆投下後の広島の街の救援にも尽力した。

 「日本はこうして負けたんだな」ということが、これまでになく実感を持って分かる。もちろん敗戦の要因が「無謀な戦略」にあることはまず間違いなく、それを指摘する類書はたくさんある。「無謀な戦略」をもっと具体的に「ロジスティクスの軽視」として「南太平洋にまで長く伸びきった兵站線」を指摘する意見も少なくない。

 しかしこの「長く伸びきった兵站線」の実情を詳細に解明した本はどうだろう?。私は本書がその初めての本だと思う。「実情」を一言でいえば、要は「船が足りない」のだ。本書はその「足りなさ」を、具体例と数値を以てこれでもかというぐらい執拗に明らかにしていく。

 海に囲まれた日本からは、戦場に大量に兵力を送り込む手段は船しかない。輸送船は民間の客船を徴用したもので船員は民間人で火器も積んでいない。当然のように敵の標的されて損耗する一方なので数が足りなくなる(「損耗する」なんてモノのように書いたけれど、1隻撃沈されれば千人単位の兵士・船員が海の藻屑と消えるのだ)。さらには、日本軍の南アジアへの進出は資源を求めてのことだったけれど、その資源を日本へ輸送するための船がない。「船がないから船を新造できない」とう悪循環..。

 上に「本書がその初めての本だと思う」と書いたのには理由もある。本書の取材過程で、田尻昌次が残した全13巻のこれまで未発表で眠っていた手記を著者が発見した。それがなければここまでの事実の解明はできないだろうと思うからだ。発見された手記を基に今後の調査も期待できる。改めて資料の収集と保存の重要さを感じた。終戦から80年が経とうとしていることを考えれば、このような資料の発掘にはもうあまり時間がないかもしれない。

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スタッキング可能

著 者:松田青子
出版社:河出書房新社
出版日:2013年1月30日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「なんだこれ?」から「へぇ~面白いじゃん」となった本。

 スマホに登録してある「読みたい本」リストに、書名ではなくて著者の名前が書いてあった。何をきっかけにこれを書いたのが思い出せない。とりあえずデビュー作を読んでみた。

 全部で6編を収録。表題作「スタッキング可能」と「もうすぐ結婚する女」は、それぞれ90ページと40ページほどの中編。そのほかの4編「マーガレットは植える」「ウォータープルーフ嘘ばっかり!」「ウォータープルーフ嘘ばっかり!」「ウォータープルーフ嘘ばっかりじゃない!」は、10~20ページほどの掌編。

 「スタッキング可能」はどこかのオフィスビルが舞台らしい。節の切り替わりにエレベーターの階数表示の図があって、5階とか6階とかの数字が示されている。その階で交わされる会社員たちの会話で物語が構成されている。

 読み始めてから時間を置かずに混乱しはじめた。

 会話の多くは男性社員の女性に対する、あるいは反対に女性社員の男性に対する、どちらにしてもしょーもない話だ。登場人物はA田やB野やC川とかの記号で表される。匿名性が高いので、誰の発言か気にしないで最初は読んでいたけれど、ある時に気が付いた。「B山って書いてあるけど、このことを言ってたのはB田のはず」

 もちろん校正ミスなどではなくて、他でも同じように辻褄が合わないことがある。どういうことなの、これ?...そうか、だからスタッキング可能なのか。

 面白かった。著者にはおそらく「普通」の押し付けに対する強い違和感があって、それはほかの収録作品にも感じられた。もう一つ特長をあげると、言葉のリズムとか音の表現がとても心地よかった。...マーガレット・ハウエル。

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童子の輪舞曲 僕僕先生

著 者:仁木英之
出版社:新潮社
出版日:2013年4月20日 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 直球の慣れ親しんだ世界観に浸っていたら、最後に変化球を投げられて面食らった本。

 「僕僕先生」シリーズの第7弾。シリーズで初めての外伝で、6編を収めた短編集。

 6編をそれぞれ簡単に。「避雨雙六」は、師弟の雨宿り中の双六遊び。思い浮かべた願いに合わせてあがりまでのマス目が変わる。僕僕先生のマス目は50ぐらいなのに、主人公王弁のはすさまじい数だった。「雷のお届けもの」は、人間の見ながら雷の国に住んで修行する少年の話。ある日雷王が持つ宝貝を龍王に届ける役目を、雷王自身から命じられる。

 「競漕曲」は、僕僕先生の一行が不思議な結界によって、港町から出られなくなった話。これといった特技のない呑気な王弁と、凄腕の殺し屋の劉欽が協力して脱出を図ることに。「第狸奴の殖」は、一行に同道する猫に似た動物の第狸奴の「さかり」の話。異界の生き物にも繁殖期がある。王弁が第狸奴の相手を探すことになった。

 「鏡の欠片」は、長安の仙人に使える二人の童子の活躍。ご主人さまの仙人が半分だけの妖しげな鏡の中に吸い込まれてしまう。助けるために向かった先に鏡のもう半分があって..。「福毛」は、シリーズ中の異色作。舞台は現代の日本で、主人公も日本人の高橋康介。性格は筋金入りの怠惰。ということはもしかして..。

 いろいろな登場人物の個性が垣間見られてよかった。いやこれまでも主人公以外の人物のことも丁寧に描かれていたけれど、少し角度を変えて焦点を当てた感じで意外な面も明らかになった。著者の「あとがき」によると「お話の種が積みあがって」いるそうだから、また外伝が出るかもしれない。

 「福毛」には驚いた。この話はまだ膨らむのかな?

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デュラス×ミッテラン対談集 パリ6区デュパン街の郵便局

著 者:マルグリッド・デュラス、フランソワ・ミッテラン 訳:坂本佳子
出版社:未來社
出版日:2020年3月31日 初版第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

人格は経験によって造られるのだなぁと思った本。

友達がこの本を紹介したのを読んで、興味が湧いたので読んでみた。

フランソワ・ミッテランとマルグリッド・デュラスの対談集。ミッテランは1981年から1995年までの二期務めた元フランス大統領。50代より上の世代なら知っている人も多いはず。デュラスはフランスの作家。デュラスの名前は知らなくても、「愛人/ラマン」という1984年発表の世界的大ベストセラーになった著書は知っている人がいるかもしれない。

二人に対するこの説明で思い浮かべるであろう「一線を退いた政治家と昔のベストセラー作家の対談」という評は2つの意味で間違っている。1つめ。この対談は1985年と翌1986年に5回に分けて行われた。つまり二人とも、現役の大統領でありベストセラー作家であったときの対談であること。2つめ。二人は第二次世界大戦中のレジスタンス運動の同志で幾度も共に死線をくぐってきた間柄。政治家と作家という以上の結びつきがある。

話題は、戦時中の話から始まる。デュラスの義妹のアパートがゲシュタポに踏み込まれ、すぐ近くにいたミッテランとデュラスは間一髪で逃げおおせたが、デュラスの夫と義妹は逮捕され収容所に送られてしまう。その悲劇的な出来事があったアパートの下に「デュパン街の郵便局」はある。本書のタイトルには強烈な意味があるのだ。

他にフランス国内の選挙と政治の話、人種差別の話、安全保障の話、ミッテランが毎年のように出かけたアフリカの話、アメリカとロナルド・レーガンの話,,話題は多岐にわたり、デュラスがミッテランに聞く、ということが多い。友人でありながらその問いかけは、いい加減な答え方を許さない。

正直に言って、私の暮らしに直結する話題は皆無だ。それでも食い入るように読んでしまった。なぜなのか?考えても「これだ」という答えには、未だたどり着かないのだけれど、二人の「言葉の重み」を、特に近年の政治家の言葉からは感じたことのない重み、を感じたことは確かだ。

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追憶の烏

著 者:阿部智里
出版社:文藝春秋
出版日:2021年8月25日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 シリーズの馴染みの登場人物が退場して、新しいキャラクターが登場、先が楽しみになった本。

 累計170万部の「八咫烏」シリーズの第二部の2巻目。1巻目は「楽園の烏」で、第一部の終わりから20年が経っていた。本書はその20年間の空白を埋める物語だった。

 主人公は雪哉。皇帝が皇太子の頃からの側近の武官。20年後を描いた前巻で彼は、博陸候雪斎と名乗ってこの八咫烏の世界である「山内」を取り仕切っている。如何にしてそのような存在に...というお話。

 物語は幸せそうな空気をまとって始まる。皇帝の一人娘の姫宮に雪哉はたいそう慕われている。雪哉もそれに応えて、公式行事での初めての大役を務める姫宮の側に付き従ったり、地方の花祭りに出掛けた際には、人知れぬ桜スポットにお忍びで連れ出したりもする。

 しかししかし。第一章を幸せそうに終えた第二章で物語は急降下する。重要人物を見舞った不測の事態。後に明らかになった仔細は壮絶なものだった。これによって波乱の舞台が幕開け、物語は二転三転と大きく振幅を繰り返して、雪哉と姫宮もそれに翻弄される。

 期待どおりに裏切られた。このシリーズの第一部は新しい巻が出るたびに、それまでとは趣向の違う物語になっていたりして、毎回「そう来たか!」と感じることがあった。本書での「重要人物の不測の事態」は予想外で(よくよく思い出せば前巻にヒントはあったのだけれど)、「え!?」と思った。

 そんなわけで次の巻が何を描くのか予想は難しいけれど、本書の終章には予告編めいたエピソードが描かれている。まだまだ楽しませてもらえそうだ。

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