蒼路の旅人

著 者:上橋菜穂子
出版社:偕成社
出版日:2005年5月初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「守り人」シリーズの外伝、ではないらしい。著者は「あとがき」で、”バルサをめぐる物語を「守り人」の物語として書き、チャグムのような少年が(中略)歩んでいく物語を「旅人」の物語として書いてみたい"と書いている。
 つまり、本作は「虚空の旅人」に続く、バルサが登場しない外伝的作品ではなく、チャグムの物語の序章、ということだ。(チャグムのような…の「…ような」の部分が少し引っかかるが)

 今回チャグムは今までにない試練を通して大きく成長する。「今までにない」とは、今回はチャグムは1人で問題を克服しなければいけない点だ。バルサはもちろん、シュガも同行していない。様々な善き人に出会い、チャグムの味方をしてくれるが、それらの人もそれぞれの立場と信念で生きていて、その身を投げ打ってでもチャグムを守ってくれるわけではない。

 そのチャグムが背負っているものも、今回はとても大きい。南の帝国タルシュの前に風前の灯同然の祖国、新ヨゴ皇国と、さらには隣国のロタやカンバルの国と、そこに暮らす幾万の民の運命を背負わされている。15歳の少年には重過ぎる荷物だろう。
 登場人物の一人が、チャグムが「ナユグ」を見ることができると知って、「逃げられる場所が見えているのに、逃げないで生きていくのは苦しいことだろう」と感じる場面があるが、その通りだ。今まで気が付かなかったけれど、チャグムには閉じこもることができる避難場所があるのだ。あるのに、そこには逃げられない。

 それにしても、ヨゴ(新ヨゴ皇国もヨゴ枝国も)の為政者たちのありさまはどうだろう。狭い国の中で、自分の保身と権力闘争のために国を危うくしてしまっている。
 チャグムは今回船でタルシュ帝国まで旅をし、先々で帝国の壮大な建物を見、自分の国が片隅に小さく描かれた地図を見た。辛くても彼にとっては良い経験だろう。為政者に必要なことの1つは、自分の国と世界とのバランスを知る世界観だろうから。「鎖国」を言い出す将軍にも、その言を重用する帝にも、その世界観は備わっていない。

 読み終えて、月並みな言葉が口をついた。「続きが読みたい」

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