有頂天家族

著 者:森見登美彦
出版社:幻冬舎
出版日:2007年9月25日第1刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「夜は短し歩けよ乙女」の著者による新刊。「夜は~」と同じく舞台は京都の街、時代はおそらく現代。前作も奇怪な人々が登場したが、今回は更に変わった人々が京都の街を縦横に駆ける。いや正確に言うと「人々」ではない。この物語は狸と天狗と人間の物語なのだ。

 設定によると、野生の天敵がいなくなって狸はその数を増やし、人間に化けて京都の街で大勢暮らしているのだそうだ。これは、そうした狸の先代の頭領の息子たち四兄弟の話。
 4人はそれぞれ父親から、責任感、暢気な性格、阿呆ぶり、純真さだけを受け継いだ。4つを併せ持つことで、先代は偉大な狸足りえたのだけど、それぞれ1つだけでは父の跡を継ぐのには不足。「あの父の子」の割にはダメな兄弟なのだ。

 現代の京都に狸や天狗が人に混じって暮らしているという設定は、特に珍しくないかもしれない。しかし、登場する狸や天狗や人は変わったのばかりだ。
 兄弟の恩師はかつては偉大な天狗だったが、今は力をなくし四畳半のアパートで暮らしている。昔の思いがあるので今でもプライドだけは異常に高い。その弟子だった女は、子どもの頃に天狗にさらわれてきたのだが、今は冷酷無比な向かうところ敵なしの半天狗になっている。主人公は兄弟の三男だが、1つ上の兄はある事件の後、蛙に化けたまま寺の井戸の中で暮らしている。
 人間たちだって負けていない。金曜倶楽部と称する連中は、毎年忘年会に狸を捕らえてきて鍋にして食う。全部で7人いるのだけれど、全員一癖も二癖もある連中だ。その内の1人はさっきの半天狗の女、長老格の高利貸しはたぶん、「夜は~」に登場した李白だろう。

 ストーリーは、四兄弟の下鴨家と宿敵の夷川家の抗争を中心に進む。夷川家の頭領は四兄弟の父の弟つまり叔父、その娘は主人公のかつての許婚だというわけで、この辺りも複雑に絡んでアップダウンを繰り返し、ちょっとホロリとさせる。実にエンタテイメントな1冊だ。

 蛇足ながら、私が個人的にウケたのは「百万遍界隈には、腐れ大学生は腐るほどいる」というところ。主人公は普段はサエない大学生の姿に化けていることが多く、同じようなのが沢山いるので目立たない、ということを言っている。私自身ずっと昔に、まさに「百万遍界隈の腐れ大学生」だった。

(2010.5.21 追記)
6月21日から、NHK FMの「青春アドベンチャー」で、「有頂天家族」のラジオドラマをやるそうです。そのことを、「ラジオドラマ「有頂天家族」放送決定」という記事に書きました。

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3つのコメントが “有頂天家族”にありました

  1. こんな夜だから書庫に行こう

    森見登美彦『有頂天家族』

     糺ノ森に住む下鴨家は狸である。狸の頭領・偽右衛門だった父の死後、その威光が薄れゆく中で偽右衛門の座を争う長兄矢一郎と叔父夷川早雲。「阿呆であることがすべて」な矢三郎は、往年の力を失った師匠・天狗の赤玉先生や半天狗の弁天に翻弄される日々。おまけに狸鍋を食さんとする金曜倶楽部の魔の手が迫る。果たして、金曜倶楽部から逃げ切れるのか。そして、夷川一族との対決の行方や如何に・・・
     モリミーワールド全開のファンタジックタヌキストーリー。
     読み出した当初はこの物語の設定にひどく違和感を覚え、なかなか…

  2. たかこ

    こんにちは。
    いやぁ、京都というのはやはり不思議な街ですね。
    森見作品を読んでいると、どんどん京大生というか京都の大学生のイメージがくずれていきます。
    基本、腐れですもんね。本当は狸だったりして…(笑)

  3. YO-SHI

    たかこさん、コメントありがとうございます。

    この本は面白かったでしょう。文句なしに笑える。
    「面白きことは良きことなり!」です。

    ご存知とは思いますが、私、元京都の大学生です。
    本当は狸だったかどうかは、訳あって言えませんが、
    腐れ具合は、多少のデフォルメはあっても、大筋では
    モリミーは間違ってはいません。情けないけど。
     

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