本読みな暮らし

おとなの読書感想文・書評/乱読生活の記録

やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている

書影

著 者:荒濱一 高橋学
出版社:光文社
出版日:2008年7月30日
評 価:☆☆☆(説明)

 著者の高橋学さんからいただきました。高橋さん、どうもありがとうございました。

 本書は、2007年7月に発行された前作「結局「仕組み」を作った人が勝っている」に続く第2弾。前作で、ビジネスの「仕組み」(=「自分がさほど動かなくても自動的に収入が得られるシステム」)に焦点を当て、大きな反響を呼んだ。
 本書の冒頭の解説によると、前作では、その「仕組み」の所有者10人のケーススタディを紹介。そこでの主張は、いわゆる「ラットレース」からいかに脱出するか?そのためには仕組みの一部になるのではなくて、仕組みを所有することが欠かせない、ということだった。

 「ラットレース」という言葉を有名にしたのは、おそらくロバート・キヨサキ氏の著書「金持ち父さん貧乏父さん」だろう。そこに書かれていたことは、お金の使い道として「お金を生むもの(資産)を買え」ということ、もっと直接的な言い方をすれば投資のススメだった。ただ、あまり役に立つ情報は得られなかった。肝心の「投資の方法」はごくあっさりとしか書かれていなかったので。

 その点、本書は同じ「ラットレース」からの脱出の指南書としては、実に有益だ。9つの様々な業種業態の「仕組み」成功例が収録されている。しっかりしたインタビューを基に、その事例のポイントがまとめられている。読者は、ここから多くのものを吸収することができると思う。
 さらに巻末には、9つの事例+前作の10事例の思考を、普遍化、体系化し、さらには実践例まで書かれている。この部分については正直に言って、枠にムリに押し込めることで、カドを丸めてしまう(各事例のとんがった部分があいまいになる)恐れを感じた。しかし、これは「前作とは異なる斬新な切り口を..」という、著者お2人の奮闘努力の成果であり、まずはそれを称えたい。
 起業を考えている人、組織の中でも変革を望んでいる人(もう少し組織の中での「仕組み」にもページを割いて欲しかった)には、一読をオススメする。得るものがあると思う。
 
 最後に。中に1つ株式投資の事例がある。プログラムの指示通り売買をする「システムトレード」という手法だ。確かに、プログラムが仕組みとなって働き、自分がさほど動かなくても収入が得られる。しかも、そのプログラムは自ら開発したものだ。だから、「仕組み」の成功者として本書で取り上げるのに不都合はないのかもしれない。
 しかし、私は、この事例にだけは違和感を感じた。誰かが、こういう投資スタイルを実践するのは構わない。だから、紹介された方を非難するのではない。これを「良い事例」にしてはいけないと思うのだ。
 なぜなら、こうした企業経営を全く無視した投資スタイルが一般化すれば、市場の乱高下を招いてしまう。さらに言えば、これは投資ではなくギャンブル、でなければゲームだ。競馬の必勝法があるとして、それを実践した人も「仕組み」成功者なのか?それに、著者が「おわりに」で言うところの「顧客心理」という要素が、この事例に限っては全くないと思うが、どうだろうか?

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2008年7月22日 | 6.経済・実用書 | コメント(7)
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7つのコメントが “やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている”にありました

  1. 高橋学 2008年7月23日 at 6:00 PM

    お世話になっております。
    『やっぱり「仕組み」を作った人が勝ってる』の著者の
    高橋です。
    ブログの記事を拝読いたしました。
    好意的に書いていただき、有難うございます!

    この本の肝はケーススタディです。
    そこを「有益」ととらえていただき、
    感謝いたします。

    また、これらのケーススタディを普遍化・体系化した
    われわれの努力を称えていただき、
    うれしく思います。

    最後のご指摘の部分は、
    確かに「会社の事業を見て投資する」という側面からは、
    外れるものかと思います。
    われわれは「仕組み」をいう視点で捉えて、
    取材対象者の実直なまでのシステムトレードの追及に
    共感したことから、この事例を取り上げましたが、
    これは本来の「投資」とは違った側面の株式売買であると思います。

    「おわりに」で、触れている「顧客心理を徹底的に読む」とは、
    不動産や保険、アフィリエイトなどの「モノの売買」が絡むケースに
    限ったことであり、株式売買のことを含まないつもりで書いていますが、
    ここはもう少し丁寧な書き方にすればよかったと思います。
    勉強になります。有難うございます。

    では、今後ともよろしくお願いいたします!

    高橋

    返信↓
  2. YO-SHI 2008年7月24日 at 6:17 PM

    高橋さん、コメントありがとうございます。

    私の記事に、丁寧に応えていただいて大変うれしいです。

    どの本がそうとは言いませんが、著者の思い付きを口述筆記でダラダラと書き連ねたような本が、ベストセラーになることが間々あります。
    そうした本に比べて、取材とそこから導いた考察からなるこの本は、実に誠実でもっと評価されてもいいと思います。
    前作の3万7千部を超えるといいですね。

    返信↓
  3. 高橋学 2008年7月28日 at 12:33 PM

    YO-SHIさん、コメント有難うございます。「取材→自分の視点での考察」こそ、ライターの本領ですが、その部分をズバリと突いていただいている点は、さすがに本物の書評家だと、改めて感心いたしました。YO-SHIさんに書評を書いていただき、これは本当に有難く、嬉しいことだと、実感しています。
    重ね重ね有難うございました!

    高橋

    返信↓
  4. 今から、ここから、私から 2008年8月1日 at 10:46 PM

    「仕組み」ブーム到来か?(1)~『やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている』

    「仕組み」ブームが到来、書店でこの本を手にし、ついでに同じく「仕組み」をキーワードにした本を3冊買って、そう感じました。

    返信↓
  5. じんさん 2008年8月2日 at 12:55 PM

    YO-SHIさん、ブログを訪ねていただき(コメント)ありがとうございました。

    自分の専門分野中心にビジネス関連の読書を重ねています。
    アマゾンからのお薦めを覗いたり、書店の店頭で本を発見していますが、これから時々こちらのブログ記事を本探しの参考にさせていただきます。

    返信↓
  6. YO-SHI 2008年8月3日 at 12:33 AM

    じんさん、コメントありがとうございます。

    じんさんはコンサルタントのお仕事をされているんでしたね。
    実は、私も十数年前に診断士の資格を取って、コンサルタント
    の端くれとして活動しています。

    その割には、ビジネス書にはあまり手が出ないで、読みたいと
    思ったものを手当たり次第に読み散らかしているだけなので、
    参考になる記事が書けるかどうか心もとないですが。
    これからも、よろしくお願いします。

    返信↓
  7. 書評リンク 2008年8月11日 at 9:58 PM

    やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている (Kobunsha Paperbacks Business (019))

    書評リンク – やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている (Kobunsha Paperbacks Business (019))

    返信↓

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