ゴッホは欺く(上)(下)

著 者:ジェフリー・アーチャー 訳:永井淳
出版社:新潮社
出版日:2007年2月1日初版
評 価:☆☆☆(説明)

  10年ほど前まで、著者の作品を貪るように読んだ。デビュー作の「百万ドルを取り返せ」から始まって、2000年に出版された「十四の嘘と真実」まで、新潮文庫で刊行された小説は十数作あるが全部読んだ。そのぐらい好きだった。その後、ちょっと縁遠くなってしまったが、書店で新作(私が読んでないだけだけど)が何作かあるのを見つけて、無性に読みたくなった。

 主人公は、絵画の専門家のアンナ。サザビーズの印象派部門のナンバーツーとして活躍していたがその職を追われ、今は投資銀行の美術コンサルタントとして働いている。この投資銀行の会長 フェンストンは、美術品のコレクターなのだが、自分が欲しい美術品を手に入れるためには手段を選ばない、殺人さえ辞さない男だ。
 正義感の強い主人公は、一旦はフェンストンがその所有者からだまし取った名画「ゴッホの自画像」を、その目をかいくぐり、裏をかいて取り返し、他への売却を試みる。そこに、フェンストンの手下の殺し屋や、FBIの捜査官、アンナの友人たちが、それぞれの事情を抱えてストーリーに絡んでくる。ニューヨーク、ロンドン、東京、そしてルーマニアの首都ブカレストを縦横に駆け巡るノンストップサスペンスだ。

 物語の背景には、2001年の9.11テロ事件や、それから遡ること20年余りのルーマニアのチャウシェスク独裁政権やその崩壊などの時事問題がある。訳者による解説によると、著者は9.11テロの直後の「行方不明・推定死亡者多数」という発表に触発されて、本書を構想したそうだ。
 それで、本書でも出だしに主人公は9.11テロに遭遇し、そこを生き延びる。グイグイと引っ張られるように読んだ。そこからも展開の早さで一気にストーリーが流れる。昔に他の作品を読んだ時の感じの再現に心躍った。

 ところが...。どうも、途中からストーリーが予測可能になってしまった。著者の作品は、1人ないし2人の主人公が、思わぬ手口で目的を達成する、登場人物も騙されるが、読者も一緒に騙される。あんまり見事な騙され方に気持ちがいいぐらい、というのが持ち味なのだ。私も気負いすぎたようだが、「もっとうまく騙して欲しかった」というのが正直な気持ち。著者の作品を読んだことのない方は、1冊目は他の作品を選んだ方がいいかも。

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