授業改革に挑む

著 者:東海市教職員会
出版社:文芸社
出版日:2006年1月30日 初版第2刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

  2004年11月に、愛知県東海市で市内18のすべての小中学校が、「授業改革に挑む」というテーマで研究発表を行った。本書はその発表をベースに教職員会がまとめた報告書だ。副題は「教師が変われば子どもが変わる 動き出した教職員」
 この発表会に先立って、東海市では約2年間にわたって授業研究(改革)が、さまざまなテーマで行われた。もちろん、こうした取り組みの前には、これだけの改革を決意させるに足る問題を抱えていた。小学校は学級崩壊、中学校は校内暴力、すべての学校ではないけれど、子ども達が落ち着いて学習できる環境ではなかった。
 冒頭にある中学の描写ではこうだ「3階からは、机やいすが投げ捨てられた。家庭課室からは包丁が持ち出され….」。この後も荒んだ学校の様子が続く。特別な学校の様子に見えるが、実は全国で同じような光景は見られるし、もっと言えば、どこの学校でもちょっとしたバランスの加減で同じことが起きうる。

 そして、東海市の小中学校の取り組みが始まった。具体的な内容は本書に譲るが、方針は明確だ。いかにして、子ども達に「分かりやすい授業」を行うか、この1点のために、徹底して授業を分析しその質を高める、ということだ。そのためには本気で議論する。そうしたことの積み重ねの成果が、授業にそして子ども達に現れるのだという。
 また、総合の時間のカリキュラムや教材作り、小中学校を通じて一貫した評価システムなど共通の課題には全市で取り組んでいる。授業を変えるには、1人1人の教師の力量を伸ばすことが不可欠だが、それを教師個人の頑張りに頼るのではなく、システムとしてバックアップすることが大切だ。
 その授業改革の結果、子ども達が落ち着いて学べる環境を取り戻すことができた。まぁ意地悪な見方をすれば、「普通」に戻ったに過ぎない。しかし、教師が変わり、授業が変わり、子ども達が変わったことは事実。その経過が本書で克明に記録されている。

 東海市が得た結論もまた明確だ。「教育改革は授業改革に尽きる」さらに、「授業改革には教師の自己改革が必要」。私は、このことを現場の教師にではなく、教育改革を謳う関係者に言いたい。最近は下火になって来たが、学校選択制、バウチャー制度といった「制度いじり」、それによる競争原理の導入こそが教育改革だ、という理屈があり、大きな声で言う人々がいた。
 この方法は、教師に競争というプレッシャーを与えて頑張らせよう、というものだ。規制緩和によって競争を起こして、経済を活性化させようという発想と同じ。結果は一例として、大規模店の出店によって廃退した地方の商店街を見れば、成功したとは言えない。
 地方の企業に、そして現場の教師に、自己改革を促す方法が競争原理以外にある。本書は極めて示唆に富む本だと思う。

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