禁断のパンダ

著 者:拓未司
出版社:宝島社
出版日:2008年1月26日第1刷発行
評 価:☆☆(説明)

 2007年の「このミステリーがすごい!」大賞の大賞受賞作。有名な文学賞で、受賞作がベストセラーになることもある賞の、それも1番評価された作品だ。どんな方法で騙してくれるのか?そんな期待をして読んだ。…しかし、先に読後の気持ちを言ってしまえば、後味の悪い小説だった。もっと☆を付けられる作品なのだが、後味の悪さだけが問題で、誰かに薦めるのがためらわれるので☆は2つだ。

 物語が終盤に差し掛かるあたりまでは悪くなかった。主人公の幸太は才能があるフレンチの若きシェフ。彼が、驚異的な味覚の持ち主であるかつての料理評論家と、天才と言われるシェフの手になる料理を食べる。事件の導入部にあるシーンなのだが、ここをはじめとする、料理の描写が読む人を魅了する。
 審査員評に「本格的美食ミステリー(「本格的」は「美食」にかかる)」とある通り、「美食」の部分は秀逸だ。高級フレンチなんか食べたことのない私も、読むだけで幸せな気分になってきた。

 実は、審査員評で評価されているのはこの「美食」部分だけで、ミステリーとしての構成には難があるとして、どの審査員からも指摘されている。まぁ「大賞」にふさわしいかどうか、と言われれば物足りないかもしれないが、私自身はそれなりに楽しんだ。キャラが立っていないと言われた登場人物たちも、私には個性的な人々に思えた。ストーリーにも起伏があって、退屈な感じはしなかった。舞台が私が生まれた神戸の街で、登場人物たちが話す神戸言葉に和んだことも付け加えておく。

 それなのに、どうして後味が悪くなってしまったのか?それは、物語の核心に触れるので具体的には言えないけれど、本書で行われた犯罪に私が生理的に嫌悪感を覚えるからだ。このあたりの感じ方は人それぞれだが、表紙のパンダの絵からホノボノとした物語を連想していると、思いもよらない展開になってギクッとすることは間違いないと思う。

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11つのコメントが “禁断のパンダ”にありました

  1. liquidfish

    タイトルと表紙のとぼけた感じはわりと好みですが…
    生理的に、ですか。。ナルホド。

    『このミステリーがすごい!』大賞の受賞作は2作読みましたが、どちらも私にとってはハズレでした。
    自分が小説に求めるのとは、面白さの種類が違うんだろうと思ってます。
    (このミス受賞作はストーリーで読ませる系が多いような気がします。)
    ベストセラー化は、売り方の上手さもあるような…?(^^;
    ともあれ、一番信頼できるのは実際に読んだ方の感想ですね◎

  2. YO-SHI

    liquidfishさん、コメントありがとうございます。

    そうなんです。生理的に..こんな話はイヤだな、と思いました。
    ベストセラー化については、おっしゃるとおりでした。
    最近は、本の売れ行きは売り方による部分が大きいですね。

    今さら恥ずかしい勘違いなんですが、この賞は新人賞なんですね。
    「このミステリーがすごい!」のランキングとは別なんだ、という
    ことに、たった今気が付きました。
     

  3. 若武

    こんにちは。editaから来ました。
    ボクも読みましたが同意見です。
    万人受けするトリックではないですね。
    まぁ、ハマる人はハマると思いますが・・・。

  4. YO-SHI

    若武さん、コメントありがとうございます。

    万人受けはしないですよね。
    もっと言えば、一般の書店の棚に置いていいのか?
    とさえ思います。
    この本を、幸太の妻の綾香のような状態の人が
    読んだらすごくツライ、精神的にキツイと思うんです。
    本屋さんに置いてあって、あの表紙からはあの内容は
    想像できないから、読むかもしれないでしょう?
     

  5. masayuki

    はじめまして

    初めて訪問させて頂きましたが、幅広いレビューでとても参考になります。

    まだ日は浅いですが、自分も書評ブログを始めたので、自身のブログにリンクを貼らせて頂きます。
    もしよろしければ相互リンクをして頂けないでしょうか。
    よろしくお願い致します。

  6. YO-SHI

    masayukiさん、コメントありがとうございます。

    ブログ拝見しました。丁寧な書評を書かれていて
    私も参考になります。
    始められて2カ月ということですので、これからも
    面白い作品をたくさん紹介されることを期待します。

    右下のリンクリストにリンクを加えました。
     

  7. チャウ子

    はじめまして。
    チャウ子と申します。
    ちょくちょく読ませて頂いてます。
    この小説は私はかなり前に読んで、自分のブログにも
    書いたのですが、YO-SHIさんと全く同じ意見で
    ちょっとびっくりしました。
    私も途中までは面白いと思って読んでいましたが、
    動機がどうしても理解できませんでした。
    勿体ない作品だなあと残念でした。

  8. YO-SHI

    チャウ子さん、コメントありがとうございます。

    同じように思われた方がいらっしゃるのですね、やっぱり。
    なんだか心強いです。
    もっと普通の事件であっても十分に面白い物語に仕上がった
    と思うと、たしかにもったいないですよね。
     

  9. きりり

    YO-SHIさん こんにちは 私も途中までで食べるコトが好きな友人に面白い本がある!と話した後、読み終わってビックリ! うわ〜どうしよ〜と焦りました ま〜しかしここまで美味しそうな本ってなかなかないので、それはそれで満足って感じです ア…ミステリとしての感想がない..

  10. YO-SHI

    きりりさん、コメントありがとうございます。

    お友達に教えてしまったとは、ちょっと弱りましたね。
    あぁゆうのが好みの人だと、誤解されてなければいいですが…

    ミステリとしての感想が…
    「このミス大賞」受賞作としての一番の問題点は、審査員の
    ほとんどから、ミステリとして評価されていないことですね。
    次回作があるようですから、手に取ってみようと思っていますが。
     

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