英国太平記 セントアンドリューズの歌

著 者:小林正典
出版社:早川書房
出版日:2009年5月25日 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 日本人の著者が書いた、英国の歴史物語。今から700年前の1286年から1329年の40年余りのスコットランドを舞台とした戦乱の時代を描いたものだ。日本の南北朝時代の戦乱を描いた「太平記」と時代も内容も類似している。「英国太平記」というタイトルは、なかなか的を射ている。

 物語の当時の英国は1つの国ではなく、イングランド、スコットランドに分かれ、それぞれに王家を戴きながらも、実質的には有力な諸侯が領地を治めていた。そして、事故でスコットランド王アレクサンダー三世が亡くなってしまう。王の血を引くのは、ノルウェー王に嫁いだ娘が生んだ3歳の幼女のみ。これが物語の始まり。
 隣国イングランドの侵攻とスコットランドの防衛を中心に、スコットランド内の諸侯の駆け引き、当時は当たり前にあった政略結婚による、複雑な家族・人間関係が、これが処女作とは思えない筆致で描かれる。いくつかの戦闘では、戦術と推移が手に取るように分かるのも素晴らしい。

 そして、本書が実に活き活きとした歴史物語となっているのは、第一にはもちろん著者の力によるものだが、これに加えるべきは、描かれている出来事そのものの魅力だ。私が英国史はおろか西欧史にも明るくないだけだと言えばそれまでだが、こんなドラマティックな物語があったのかと、うれしい驚きの経験だった。
 最後にひとつ。戦乱の物語の常で、主要な登場人物は全て男性。男たちがある者は上を目指し、あるものは情のために、別の者は保身のために動く。それに対して、女性たちは戦いには出ないが、それぞれの信念で動く。女性を主人公に据えた日本の戦国時代の物語があるように、「英国女太平記」というのも面白いかもしれない。

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