トロイアの黒い船団 サトクリフ・オリジナル4

著 者:ローズマリ・サトクリフ  訳:山本史郎
出版社:原書房
出版日:2001年10月10日 第1刷
評 価:☆☆☆(説明)

 著者は、歴史小説・ファンタジー小説家。オリジナル作品を多く手がけ、「ともしびをかかげて」でカーネギー賞を受賞するなど評価も高いが、私が注目しているのは、著者が伝説や神話の再話を試みた作品。以前に読んだ、アーサー王物語3部作は名作だと思う。
 そして、本書はホメロスの叙事詩「イーリアス」が描くトロイア戦争の物語の再話だ。「イーリアス」の名前は知っていても、少々敷居が高く、手に取って読んだ人は少ないのではないかと想像する。それが著者の手にかかれば、新たな息吹が吹き込まれ、活き活きとしたファンタジーに変身する。

 ギリシア神話がベースなので、華々しい神々が登場人物の一角を占める。ゼウスにアポロンにポセイドン、アテナにアフロディテら女神。それから、アキレウスやオデュッセウスら英雄が縦横に活躍する。まさに神話の時代の人間界に神々が介入した大決戦なのだ。
 戦の発端は、トロイアの王子パリスがスパルタの王メネラオスから、絶世の美女と言われる妻のヘレネを奪ったこと。大決戦の原因としてはいささか俗っぽいが、王子と王の間のいざこざだから、すぐに国同士の問題になった。
 さらにメネラオスの兄アガメムノンが、ギリシア各地の王に君臨する大王であったことから、2国間の争いは、地中海世界を二分する大戦争に発展。これに、それぞれの思惑によってゼウスやアテナら神々がどちらかに肩入れして、どちらかが滅びるまで収集がつかない大決戦となってしまった。

 戦いはこの後10年に及ぶが、物語は10年目に入った辺りから詳述される。それは「イーリアス」がそうであるからだ。訳者あとがきによれば、戦いに至る経過と、戦いの結末は「イーリアス」には含まれていないそうだ。さらに、個々の戦いのエピソードも、時間的な整合性なく記述されている。それらを著者が他の文献などから補って、発端から終結まである完成された物語にしたということなのだ。
 一進一退を繰り返す戦争にはイライラさせられるが、伝説を楽しむという意味では充分に堪能できた。トロイア戦争と聞いて「トロイの木馬」しか思い浮かばない人は(私もそうだった)、こんなに様々な出来事や英雄の物語の一部であったことに驚くだろう。ところで、アキレウスの弱点だから「アキレス腱」という名前がついたのだけれど、どうしてそこが弱点になったのか知ってます?(答えは本書の中に)

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