「おバカ教育」の構造

著 者:阿吽正望
出版社:日新報道
出版日:2009年7月30日 発行
評 価:☆☆(説明)

 以前にいただいたコメントで紹介いただいたので読んでみた。著者は、元公立小中学校教員。「おわりに」に「長い教員生活で..」とあるので、まぁ少なくとも20年ぐらいは先生をされていたのだろう。現場で感じたこの国の学校教育の実態への怒りと危機感が伝わってくる。

 極めてストレートな主張が書かれている。文科省の官僚のデタラメな教育改革と法律による規制が、学校の機能不全をもたらし、「子どもを教育しない(できない)学校」にしてしまった。対策は徹底した教育の自由化。具体的には「学習指導要領」「教員免許制度」「受験競争」の廃止。
 あまりに突飛な意見だと思われるかもしれないが、OECDのPISA(学習到達度調査)でトップの成績を修めたフィンランドの教育制度などを引いて、この意見に至っている。フィンランドの教育ではテストを行わず、受験勉強もなく、教員の免許更新制度も評価制度も、教科書検定制度もないのだそうだ。

 私としては、4割は共感する、6割は共感できない、という感じだ。著者も「半信半疑の方が多いはずです。」と書かれているが、四信六疑?というところか。共感するのは、今の日本の教育の現状が危機的な状況であり、それは個々の先生や親にだけ起因する問題ではなく、教育システムに構造的な問題がある、とするところ。そして、「国任せ」「官僚任せ」でなく、自分たちで監視しよう、というところ。
 共感できないのは、その分析と対策について。例えば、官僚が自分たちの利益や天下り先の確保のために、教育を崩壊させるような制度法律を作っている、という主張は言い過ぎだ。ましてや「優秀な日本国民を「愚民」にする外国政府の謀略説」はいただけない。わずか2ページに過ぎないがこの話は書かない方が良かった。ジョークなのであれば、そうハッキリと書いておいて欲しい。
 逆に対策の「教育の自由化」については、言葉が足りなさ過ぎる。今の問題の原因の一つに、規制でがんじがらめになった学校の硬直化があると私も思う。しかし、その規制を全廃すればすべては上手く行く、かとでも言うような著者の主張はあまりに楽観的かつ無責任だ。

 怒りのあまりなのか、インパクト狙いなのか、極端なもの言いが目立つのも気になった。教育改革のことを「愚民化政策」「教育破壊工作」、学校のことを「落ちこぼれ製造工場」と言ってみたり、「能力の高い生徒でも、最低限の学力すら身に付きません」「教員の評判を得た教科書は、これまで一点もありません」と100%の断言をしたり。
 アジ演説ではないのだから、文章によって誰かに何かを訴えたいのなら、冷静に正確にならなければ信頼を失うと思う。こうしたことが私に合わないと思ったし、共感できない部分が多かったので☆2つとした。

—追記—

 ネット上に、コピーしたかのようにほぼ同じ内容の本書についてのコメントを数多く見かけます。本書を多くの人に手に取ってもらいたい、との熱意の表れだと推察します。お一人の方なのか複数いらっしゃるのか、著者や出版社と関係があるのか、全く分かりませんが、お止めになった方がいいと思います。同じ文面がたくさん発見されれば、そのコメントの誠実さが疑われ、推薦しようとする意図と逆の結果を招いてしまいます。

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