ウェブはバカと暇人のもの 現場からのネット敗北宣言

著 者:中川淳一郎
出版社:光文社
出版日:2009年4月20日 初版1刷発行 2009年8月5日 6刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者は博報堂で企業のPR業務に携わり、退社後しばらくして雑誌編集長などを経て、2006年からインターネット上のニュースサイトの編集者をしている。本書でそのニュースサイトでの出来事が多く語られているので支障があると考えたのか、著者紹介ではどこのサイトかは明示していない。まぁ、ちょっと探せばスグに分かるのだけれど、著者の意向に沿ってここでも紹介しないことにする。

 本人もおっしゃっているが、著者は職業柄ネット漬けの毎日を送っている。その著者が「ネットの世界は気持ち悪すぎる」と思い、その想いが本書執筆のきっかけになったようだ。私もコンピュータ関連の仕事をしていてブログも書いているので、ネット接触時間は長い方だと思う。そして私は「気持ち悪い」とはあまり思わないが、うんざりすることは度々ある。
 しかし著者の「気持ち悪い」と私の「うんざり」は、どうもネットの同じ部分についての感想らしい。つまり、人を貶める書き込みが多いこと、まじめな議論をするとちゃかされること、真偽不明の情報が氾濫していることなど。そして、異なる意見を絶対に受け入れないばかりか、徹底的に叩くようなことが日々繰り返されていることも。

 そして、本書の大半はこうした「うんざり」な事例の紹介に割かれているのだが、教訓も引き出している。ネットで叩かれやすい10項目として「上からものを言う、主張が見える」「頑張っている人をおちょくる、特定個人をバカにする」「誰かが好きなものを批判・酷評する」「反日的な発言をする」などが挙げられている。字面を見ると「そりゃ当然だろう」と思われるものもあるが、著者が具体的にあげている事例は、確かに著者に同情したくもなるようなことが多い。
 また、ネットでウケるものもいくつか挙げている。「話題にしたい部分があるもの、突っ込みどころがあるもの」「身近であるもの(含む、B級感があるもの)」「テレビで人気があるもの」「芸能人関係のもの」「エロ」「美人」などだ。

 全編で著者が叫んでいるように感じる本なのだが、それはウェブについて明るい未来を語る本や論調に対する違和感やあせりからくるものなのだろう。「ウェブ進化論」という本が数年前にベストセラーになったが、それ以降「人々の知識が結集した「集合知」によって、不可能が可能となり未来が開ける」といった論調が一方であったことは事実。著者はそれに対してネットの現場から「そうじゃないんだよ」と言おうとしているわけだ。少し叫ぶくらいの声でないとかき消されてしまう危機感を持って。
 現場からの真実の声を伝えようとした、その意気や良しだ。しかし「もう、過度な幻想を持つのやめよう」と、悲観的な未来を描こうとするのは同意できない。確かに「ネットが実現する明るい未来」に比べると現実は確かにクズのようなものかもしれない。けれども多くの人はそんな未来を信じちゃいないと思う。もっと小さな幸せを喜べる感性をちゃんと持っている。だから、そんな未来と比べて現実を悲観する必要なんかないのだ。それが見えてないとすると、著者もネットに囚われて視野が狭くなってしまっているのかもしれない。

 この後は書評ではなく、私が思ったことを書いています。興味がある方はどうぞ。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 1つ目は、本書に書いてあるネットのマイナス面は、ほとんど周知の事実だということ。本文に書こうかどうか迷ったのですが、この本を貶める結果になっては本意ではないので、「思ったこと」としてこちらに書きます。もちろん具体的な「事例」としての価値はありますが、中傷が多いことも、ウソが多いことも、ブログの「炎上」が発生していることも、一定の期間ネットに接していれば(知識としては)知らない人はいないと思います。

 2つ目も似た内容ですが、「ネットでウケるもの」も、特に目新しいものではないこと。これは著者自身「こんなことは1ヶ月もあれば分かる」と言っています。ただ1つ思い出した思い出話をします。それは今から15年も前のこと、私はある大手企業の商品紹介と販売のウェブサイトの立ち上げに携わっていました。
 サイトの名称をどうするかを決めていた時、担当役員が「ちょっといかがわしいのでないと見てもらえんだろ」と言って、こちらが案として持っていった名前に「夜の」と頭に付けたんです。(ちなみにサイトには「夜の」に対応するコンテンツは何もなく、普通の商品紹介サイトでした(笑))まさにB級を演出するネーミング。今思えば15年前にして慧眼だったと思います。

 もう1つ。「テレビで人気があるもの」がウケる、ということも先日実感しました。「「八日目の蝉」にアクセスが集中」という記事で書いたとおり、テレビドラマのスタートと同時にアクセスが急上昇したんです。本書にも「テレビの時代は本当に終わったのか?」という項目がありますが、「終わった」なんてとんでもない。テレビの影響力は ネットの何倍、いや何十倍もあると思います。

6つのコメントが “ウェブはバカと暇人のもの 現場からのネット敗北宣言”にありました

  1. れもん

    れもんです^^

    そうですね・・・。
    著者が言いたかったのは、「ウェブにそんなに期待しないで!たいしたもんじゃないよ!」ということと、期待している人への警告なのでしょう。
    でも、ウェブにそれだけの期待している人がどれだけいるのか・・・。
    1つの世界しか見えなくなっているのは著者の方かも・・・と思いました。

  2. おでこのめがねで読書レビュー

    ウェブはバカと暇人のもの (中川 淳一郎)

    総得点 (15点満点) : 11点 内訳 文章 (1-5) : 3 点, 内容 (1-5) : 4 点, 感動 (1-5) : 4 点 “日経アソシエかわらばん”で中川淳一郎氏が書いたコラム”梅田望夫氏の「残念発言」はもっともだ”およびIT media NEWSの記事”日本のWebは「残念」梅田望夫さんに聞く”をみてこの本…..

  3. 本の宇宙(そら) [風と雲の郷 貴賓館]

    ウェブはバカと暇人のもの

     「現場からのネット敗北宣言」という副題のついた「ウェブはバカと暇人のもの 」(中川淳一郎/光文社)。かなり物議をかもしだしそうなタイトルである。世間では、やれWeb2.0だとかクラウドコンピューティングだとか、ネットに関する夢や希望が語られがちである。しかし、…….

  4. YO-SHI

    れもんさん、コメントありがとうございます。

    そうなんですよ。ネットで人生が劇的に変わることもあるけれど、
    自分もそうなるとは限らない、ってちゃんとみんな分かってると
    思うんです。わざわざ「違いますよ」って言われなくても。

    それに私は、ブログを始めて色々な方と知り合って、色々なことを
    教えてもらったので、「なにも変えない」なんて言って欲しくないなぁ
    と思うんです。
     

  5. itchy1976の日記

    中川淳一郎『ウェブはバカと暇人のもの 』

    ウェブはバカと暇人のもの (光文社新書)中川淳一郎光文社このアイテムの詳細を見る
    今回は、中川淳一郎『ウェブはバカと暇人のもの 』を紹介します。本書の要旨はは以下の通りである。ブログやSNSで書き込んでいる内容はあくまで暇つぶしに過ぎない。ネットユーザーは暇人が多い。これはテレビのユーザーとかぶることになる。ネットの世界で受けるのは、テレビの情報やB級記事である。雑誌や新聞のネタは、ネットに公開されるものか、テレビで取り扱うものでなければ見向きもされない。企業はネットの書き込みに対する耐性をつけて…

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です