消えた錬金術師 レンヌ・ル・シャトーの秘密

著 者:スコット・マリアーニ 訳:高野由美
出版社:エンジン・ルーム/河出書房新社
出版日:2010年5月30日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 発行元のエンジン・ルームさまから献本いただきました。感謝。

 訳者あとがきによると、本書は著者のデビュー作で、2007年3月に英国で発売され大ヒット作となり、その後18言語に翻訳、30か国で発売されたそうだ。また、公開日もキャストさえ未定ながら映画化が決定している。そして著者は、主人公ベン・ホープが活躍する5部作を早くも書き上げ、既に次のシリーズに取り掛かっているという。まさに、波に乗っている感じだ。
 まぁ、その波が物語にも流れているわけではないが、大波小波のピンチが次々と主人公を襲うスピーディな展開は、勢いを感じさせる。何度も生死の壁の上を歩き、その度にこちら側へ落ちてくる強運は、ご都合主義と言われればそれまでだが、新しいヒーローの誕生とも言える。ヒーローは簡単には死なないのだ。

 物語は、伝説の錬金術師フルカネリの手稿をめぐる探索行だ。病気の子どもを救うために、その手稿の入手を依頼された主人公のベンが、数々の困難を乗り越えその手稿に、そしてそこに書いてある古代の秘密に迫る。図らずもパートナーになったのは、美貌の生物学者のロベルタ。先々で二人を阻む殺し屋たちの背後にはある宗教結社の影がチラチラ見える。
 ここまで言えば気が付く人もいるだろう。本書は「ダン・ブラウンの作品のような物語」だ。著者や関係者にとっては、この紹介の仕方はありがたくないのか、意図したとおりなのか分からない。ただ、ダン・ブラウンに触れずに本書を紹介するのは、私としてはとても収まりが悪く、不誠実な感じさえする。
 古代の知恵の探索、美貌の科学者、宗教結社の陰謀。実は、暗号の解読も重要な要素だし、狂信的な殺人者まで出てくる。著者が自ら「この本に出てくる○○は事実に基づいている」なんて書いているところを見ると、もう著者自身がダン・ブラウンを意識していることは明白だと思うがどうだろう?

 ただし、違いも明白。ダン・ブラウンのラングドン教授はアカデミズムの人だが、長身、ブロンドの髪、孤独な青い眼を持った本書の主人公ベン・ホープは、英国陸軍特殊空挺部隊の元精鋭。銃を持った敵に囲まれようと、敵の本拠に囚われようと怯まないマッチョなのだ。
 さらに、彼は心の痛みも抱える。ラングドン教授の閉所恐怖症も面白い設定だが、ベンの心の痛みの元となる悲しい過去はストーリーにも絡み、マッチョな主人公の物語にありがちな「万能感」を巧妙に抑え、物語に深みを与えている。この後のシリーズで、ベンの心情がどのような展開を見せるのかも楽しみだ。

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