一億総ガキ社会 「成熟拒否」という病

著 者:片田珠美
出版社:光文社
出版日:2010年7月20日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「ウェブはバカと暇人のもの」「地域再生の罠」「個人情報「過」保護が日本を破壊する」「テレビの大罪」。ここ半年で読んだ新書をいくつか並べてみた。タイトルに共通するのは「刺激的な言葉」だ。「バカ」「罠」「破壊」「大罪」。
 本書もタイトル全体が刺激的だ。かく言う私も、そのインパクトによって購入したと言っても過言ではない。そのタイトルが示すところは、日本国民全体が「ガキ」化している、成熟した大人になれていない(あるいはそうなる可能性がある)という著者の見立てだ。

 精神科医で大学の教員でもある著者は、患者や学生と相対する中で「打たれ弱さ」「他責的」「依存症」の3つの傾向を感じている。例えば、上司に叱られて会社を辞めてしまう若者らに「打たれ弱さ」を、モンスターペアレントたちに「他責的」な傾向を、(日本人じゃないけれど)マイケル・ジャクソンの薬物使用などに「依存症」を見る。
 正直に言って、こうしたことは方々で盛んに言われていることで、日々普通に暮らしていて感じる機会も多く、本を読んで確認するまでもない。しかし本書の特長は、この3つの傾向すべてに共通する1つの要因を指摘していることにある。その要因というのが「理想の自分」と「現実の自分」のギャップだ。
 そのギャップに耐えられない「打たれ弱さ」。場合によってはギャップを感じる恐れがあることを最初から避けてしまう。ギャップを他の何かのせいにしてしまう「他責的」傾向。優秀であるべき我が子がそうならないのは「先生のせい」「学校のせい」「社会のせい」。そしてギャップを薬物で埋めようとする「依存症」。

 本来であれば成長とともに、このギャップを「耐える」「いなす」「受け入れる」ことを身に付ける。それが「大人になる」ということなのだが、身に付けられない人が増えている。著者は最終章で、そうならないための「処方箋」の提示を試みているが、そこに満ちる「もどかしさ」がこの問題の底深さを表している。

 この後は書評ではなく、この本を読んで思ったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 この本を読んでたくさんのことが心に浮かびました。子どもが大人になれない原因の1つに挙げてあった「先回りした失敗の防止」、自分が思った通りになっていないことで他人を激しく責める人、仕事や普段の生活で思い当たることがたくさんあります。
 しかし、ここでは1つだけにします。それは子どもの「万能感」のことです。よく子どもたちには「無限の可能性がある」と言います。幼いころから何かに打ち込んで大成した人の話も。本書にはスポーツ選手の何人かの名前が挙がっています。私は、子どもに夢を与えるこうした話を否定しませんが、手放しで認めることもできないのです。

 今は「キャリア教育」の過程で、中学生から将来の職業について考える機会があります。「自分はどういう職業に向いているのか?」「何になりたいのか?」を考える。それをその後の進路選択につなげる。社会に出るまでに時間をかけて準備する。悔いのない人生を送るために。
 非の打ちどころのない優れた考えにも思えますが、個々のケースではそんな単純ではないことが分かります。前提として「何にでもなれる」はずなのですが、現実にはそんなことはないのですから。それから「なりたいものが分からない」という悩みや、「なりたいものにならないと幸せにならない」という考えに陥ってしまう可能性もある。

 もちろん、成長する過程で落ち着くべきところに落ち着くので、子どものころから夢を制限することはない、という意見もあるでしょう。しかし、世の中が発信するのは「夢をあきらめるな」というメッセージばかりです。どこかで違う考え方を教えてあげないといけないはずなのに。
 まぁ違うことを言うとすれば自分の親です。私がこんなことを思ったのも、娘のことを考えて、という側面もあります。無条件に応援してあげたいけれど「決して夢をあきらめるな」なんて無責任には言えないです。では、いつ「あきらめることも必要だよ」と言うのか?悩ましい問題です。

6つのコメントが “一億総ガキ社会 「成熟拒否」という病”にありました

  1. 相楽総一郎

    はじめまして、ノンフィクション作家の相楽総一郎と申します。

    実は、この度、私のブログが書籍化されることになりました。

    そこで、是非、感想を頂きたくコメント致しました。

    書籍化されるブログというのが、こちらです

    ⇒ http://ameblo.jp/nonfiction1 

    お忙しいとは思いますが、是非とも、よろしくお願い致します。

  2. 匿名

    ノンフィクション作家の相楽総一郎と申します。

    突然のメッセージ失礼いたします。

    実は、今度、私のブログが書籍化することになりました。

    → http://ameblo.jp/nonfiction1/ 

    アクセス数が少なく、まだランキングが低い状態ですが、

    たまたま出版社の方の目に止まり、

    「どうしても、このブログを書籍化したい!」

    「この実話は、絶対にミリオンセラーになるよ!!」

    とのことで、今、上層部の方と交渉しているらしいです。

    そこで、是非とも、 お願いがあるのですが、

    私のブログの感想を、記事の中で 紹介して頂けないでしょうか?

    もちろん、良くも悪くも、率直な感想で構いません。

    出版社の方があまりにも熱心に動いて下さるので、

    私も何かしなければ申し訳ない気持ちになり、

    このような自分勝手なお願いをしてしまいました。

    私事なのは十分承知なのですが、是非ともお力をお貸しください。

    よろしくお願いいたします。

    ノンフィクション作家 相楽総一郎 

  3. Marila

    はじめまして。
    ご紹介されている本、今年の夏に読んで、猛暑の中肝を冷やしました(苦笑)

    http://marila.blog6.fc2.com/blog-entry-627.html

    多分に、自分の経験からしか解説はしていませんが、もう少し深く読み進めて日本の現状というものを認識したいと思った1冊です。
    子育て真っ最中の世代、子供には無限の可能性がある…とはいえ、現実も目の前にある…。
    なかなか難しい問題が含まれていますよね。
    これからもブログ拝見させていただきます!

  4. YO-SHI

    相楽総一郎さん、コメントありがとうございました。

    ブログを読ませていただきました。書籍化されるとのこと、
    うらやましい限りです。
    書店でお見かけしましたら読ませていただきます。
    感想もその時に掲載しようと思います。
     

  5. YO-SHI

    Marilaさん、はじめまして。コメントありがとうございました。

    ブログ拝見しました。たくさんの本を読まれて、深く考えをめぐらされて
    いらっしゃる様子が伝わってきました。子育ての微笑ましい姿も一緒に。

    記事に「最終章に満ちるもどかしさ」のことを書きましたが、この本と
    同じように、今の世の中には、どうしようもない(処方箋が書けない)、
    出口が見えない、というもどかしさを感じますね。

    これからも、よろしくお願いします。
     

  6. ぱふぅ家のサイバー小物

    【断念すること】一億総ガキ社会

    彼らの多くは、現実の自分を受け入れられないでいる。「こうありたい」という自己愛的なイメージ上の自分と、現実の自分との間のギャップが大きすぎるためである。「自分は何でもできる存在である」といった幼児的な万能感をひきずっており、実際には「それほどでもない」等身大の自分をなかなか受け止められないのである。(5ページより)…

Marila へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です