名もなき毒

著 者:宮部みゆき
出版社:幻冬舎
出版日:2006年8月25日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「小説家には2種類しかいない。宮部みゆきと、それ以外だ」 林真理子さんが大沢在昌さんの創作だとしておっしゃった言葉だそうだ。そのくらい著者の作品は売れている、ということらしい。直木賞、日本SF大賞、山本周五郎賞、日本推理作家協会賞と、受賞歴も華々しい。しかし、私には縁がなかったのか本書が初読。ちなみに本書は吉川英治文学賞受賞。

 主人公は杉村。国内で指折りの一大グループ企業「今多コンツェルン」の会長の娘婿で、義父の会社で社内報を作る編集部に勤めている。著者の前作「誰か」の主人公でもあるらしく、本書にもその時の事件への言及もあるが、物語は独立しているので本書だけ読んでも問題はなかった。
 物語の発端は、犬と散歩していた老人が、コンビニで買ったウーロン茶に混入された青酸性の毒物で殺害された事件。連続無差別毒物殺人事件の4人目の被害者とされた。杉村は、部下のアルバイト絡みのトラブルから曲折を経て、被害者の娘と孫と知り合い、毒物殺人事件に巻き込まれていく。

 面白かった。スラスラと読めた。物語の大きな軸が、毒物殺人事件の犯人探しと、杉村に降りかかってきたアルバイト絡みのトラブルの解決との2本あって、それが絶妙に組み合わさっている。タイトルにある「毒」にも複数の意味合いが込められている。さすがは「売れっ子作家」の作品。
 ただ、スラスラと読めすぎる感じは否めない。登場人物のほとんどが、警察でも探偵でさえない杉村に協力的なので、事件が一方向に解決に向かっていく。大会社の会長の娘婿ゆえの苦労も危険もあるとしても、やっぱり「逆玉」の主人公へのやっかみが、そう思わせるのかもしれないけれど。

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4つのコメントが “名もなき毒”にありました

  1. YO-SHI

    シフォンさん、コメントありがとうございました。

    >宮部さんと同じ時代に生きているって幸せ

    宮部ファンにとっては、まさにそんな感じなんでしょうね。
    コンスタントに作品が発表されているようですし。

  2. Medeski

    お早うございます!本書を読んで誰か読んでないかな?とネットサーフィンをしていたら、やっぱりここに辿り着きました。「小説家には2種類しかいない。宮部みゆきと、それ以外だ」 ―――ジェフ・ベックかよ!と思いつつ、それももしかして元ネタあんのかしら。この作品、シリーズものらしいですね。読んでる途中で、さらり前作の姉妹だかの話していましたが、私はシリーズものだと思わなかったので「……(へえ、匂わせるだけか。珍しい)」と感心してました。

  3. YO-SHI

    Medeskiさん、コメントありがとうございます。

    この杉村が主人公の作品は、今のところ3作品で、1作目は「誰か」、
    この本が2作目、3作目の「ペテロの葬列」が現在新聞連載中
    だそうですね。

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