植松電機I

著 者:田原実 絵:西原大太郎
出版社:インフィニティ
出版日:2010年11月23日第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、株式会社インフィニティが発行している「感動コミック」シリーズの第7弾。株式会社インフィニティ様から献本いただきました。感謝。

 このコミックは、植松電機の専務さんである植松努さんの半生を描いたもの。植松電機は、北海道のほぼ中央の赤平市にある、車載電磁石システムの設計・製作・販売の会社。車載電磁石とは、建設現場で鉄板を運んだり、廃棄物の分別のために使われる強力な磁石のこと。まぁ「どこにでもある」とは言わないが、普通の中小企業。しかし、植松さんと植松電機は、普通ではない事業に取り組んでいる。それは「宇宙開発」だ。

 物語は、植松さんの小学生時代から始まる。二宮康明さんの「よく飛ぶ紙飛行機集」を読んで、紙飛行機作りに夢中になる。自分で設計を試みるが失敗、「飛行機が飛ぶ仕組み」に興味を持ち、飛行機やロケットの仕事を志すようになる...。子どもたちの理系離れを嘆く大人たちが、泣いて喜びそうなストーリー。...だけであれば、「感動コミック」にはならない。

 植松さんは、飛行機の知識を独学で習得し、中学生のころにはそれは「航空力学」と呼べるほどのものになる。しかし夢中になるあまり、学校には馴染めず成績も落ちる。中学の進路相談で、植松さんの志に早くも大きな壁が立ちはだかる。「芦別(植松さんの出生地)に生まれた段階で無理」と、先生に宣告されてしまうのだ。
 その後も、大小いくつもの壁が立ち現れる。「○億円かかりますよ」「どうせムリですよ」「やったって何も変わりませんよ」 それを、最初は悩みながら、後には自信を持って乗り越える。そのキーワードは「だったらこうしてみたら?」 子どもたちとその親御さんたちに読んでもらいたい一冊。

 この後は、書評ではなく、この本を読んで思ったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

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 レビューを読んでいただいて、進路相談で「芦別に生まれた段階で無理」と宣告した中学の先生に憤りを感じる方が多いでしょう。しかしここには、私をはじめ大人たちが自省すべきことがあるように思いました。
 「なんてひどいヤツだ」「だいたい教師がこんなだからダメなんだ」と憤ることは簡単だし、気も晴れます。しかし、私たちは同じようなことをしてはいないでしょうか?少なくとも私には思い当たることがあります。あの中学の先生は、鏡に映った自分の姿ではないのか?ということです。

 大人は子どもよりたくさんのことを知っています。世間の事情も心得ています。いわゆる「常識」を身に付けています。だから子どもの夢が「難しそうだ」という判断ができます。その子に対する責任があればあるほど「考え直した方がいい」と伝えたくなるでしょう。一般論として「理系離れを嘆く」大人と、特定の子どもに「ロケット開発?それはムリだよ」という大人が、1人の人間に同居していてもおかしくないないのです。

 しかし、私たちが知っている「常識」は、量的にも質的にもどの程度のものなのでしょう?あの中学の先生は、「ロケットは政府機関でしか作れない→開発者になるには、東大にでも入らないとダメだろう→彼の成績ではムリ&芦別から東大に行った人を知らない」という論理展開で「無理」と言ったのです。
 ところが「安全なロケットなら民間でも作っていい」そうです。植松さん自身もそのことを、後になって大学の先生から聞いて知ります。中学の先生が知らなかったとしても責められないでしょう。(私は「ロケットは政府機関でしか作れない」なんてことさえ知りませんでした。)大人が持ってる「常識」なんて実は大したことないのかもしれません。まして、世間が将来どうなるかなんて分かるはずもないし、その子がどのくらいガンバルかも容易には推し量れないのです。

 実は私は、小中学生の「ものづくり教育」に仕事で携わっています。記事で書いた「理系離れを嘆く大人たち」の一人、というわけです。ない知恵を絞って、いろいろと思い付いたことを実行しているのですが、隔靴掻痒とはこのこと。今一つ手ごたえがありません。子どもたちに、このコミックでも読んでもらればどうだろう?と思っています。

2つのコメントが “植松電機I”にありました

  1. YO-SHI

    片木慎一さん、コメントありがとうございます。

    大志を抱け!!ですね。
    私は今年は年男です。手を伸ばせば50歳に届きそうです。
    まだまだ、将来こうなりたい、という気持ちを保っていたい
    と思います。
    (いいかげん実現しろよ、という声もありますが) 

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