折れた竜骨

著 者:米澤穂信
出版社:東京創元社
出版日:2010年11月30日 初版 
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者の作品は、アンソロジーの「Story Seller」と「Story Seller2」に収録されていた短編を読んだだけで、これまで長編は読んだことがなかった。本好きのためのSNS「本カフェ」で、「ファンタジーはどうもダメで..」とおっしゃるミステリファンのメンバーさんから、「ファンタジーを本格推理にした作品」として教えていただいた。感謝。

 物語の舞台は、グレートブリテン島の東、北海に浮かぶ架空の島のソロン島と小ソロン島からなるソロン諸島。時代は12世紀の末。主人公は、ソロン諸島を治めるエイルウィン家の娘のアミーナ、16歳。
 ある日、アミーナの父で領主であるローレントの元に、ソロン市長、吟遊詩人、トリポリ伯国から来た騎士とその従者、4人の傭兵候補が訪ねて来た。そしてその夜、ローレントは作戦室で何者かに殺害されてしまう。そこにさらなる襲撃者が..

 物語は、ローレント殺害の犯人探しを軸に進むミステリー。トリポリ伯国からきた騎士のファルクと従者のニコラが「名探偵と助手」の役割。領主一家が住む小ソロン島は、150ヤードの海でソロン島と隔てられていて、夜間は「自然の要害」と化す。ローレントがその夜「作戦室」に居ることは、限られた人しか知らなかった。などを手がかりに、2人とアミーナが、犯人に一歩二歩と近づいていく。
 ファルクの推理は、細かい点を見逃さず、論理的に組み立てていく。本書は本格的な推理小説なのだ。ただし「ファンタジーを本格推理にした作品」と紹介されたとおり、本書はファンタジー作品でもある。物語の世界では、魔法や魔術はもちろん、「暗黒騎士」とか、首を切り落とされない限り死なない(死ねない)「呪われたデーン人」なんてのも出てきて、物語の重要な要素になっている。

 「自然の要害」となる小ソロン島は、ある意味「密室」。でも「魔法あり」じゃ「密室」の意味がない、そもそもそれじゃミステリーにならないんのじゃないの?という心配はもっともだ。しかし、その世界のルールさえ押さえれば、ファンタジー+本格ミステリーも可能なのだ、ということを本書は示してくれた。
 私は、ミステリーよりファンタジーの方を多く読む。だから、ミステリーファンが本書をどう受け止めるのかちょっと分からないけれど、ファンタジーファンにはオススメ。

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4つのコメントが “折れた竜骨”にありました

  1. 松田朋恵

    米澤作品、わたしも「ストーリーセラー」で気になっていたので「ボトルネック」と「インシテミル」は読みました。「春期限定・・・」のシリーズはどうなんでしょうね?
    そして、先日「ストーリーセラー3」も読み終えました。わたしは1~3まで、全ての米澤作品は好きです。このテイストで書いている長編があったら読みたいのですが。
    (なんていうか、昭和初期っぽい感じというか?)ちなみに「3」では伊坂幸太郎が抜けたり湊かなえやさだまさしが入ったりと若干入れ替わっています。
    「シアター!」は1~2、購入済みですので近々読みますね。 そうそう、メルマガでの書評、凄いですね、頑張ってください!!

  2. YO-SHI

    松田朋恵さん、コメントありがとうございました。

    松田さんのブログの「ボトルネック」と「インシテミル」のレビューを
    読みました。「インシテミル」の方が良かったようですね。

    「ストーリーセラー3」は、先日書店で見つけたのですが、小さめの
    弁当箱のような厚みにひるんでしまいました(笑)
    いずれ読むことは決めているのですが、積読の多い今はまだやめとこう
    と思って、買いませんでした。

  3. YO-SHI

    ↑上の私のコメントに追記です。

    昨日「ストーリーセラー3」を書店で買いました。
    確かに厚い本だけど「小さめの弁当箱」は言いすぎでした。
    厚さは2cmです。お詫びして訂正いたします。

    そのくらいのボリュームの印象が確かにあったんですが、
    何を勘違いしていたんでしょう?
     

  4. 粋な提案

    「折れた竜骨」米澤穂信 (ミステリ・フロンティア)

    ロンドンから出帆し、波高き北海を三日も進んだあたりに浮かぶソロン諸島。その領主を父に持つアミーナはある日、放浪の旅を続ける騎士ファルク・フィッツジョンと、その従士の少年ニコラに出会う。ファルクはアミーナの父に、御身は恐るべき魔術の使い手である暗殺騎士に命を狙われている、と告げた……。
    自然の要塞であったはずの島で暗殺騎士の魔術に斃れた父、「走狗(ミニオン)」候補の八人の容疑者、いずれ劣らぬ……

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