著 者:有川浩
出版社:角川書店
出版日:2011年3月31日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
帯に「史上初、恋する観光小説」とある。まず「観光小説」って何だろう?と思ったが、今なら分かる。本書の舞台は高知。読み終わって「高知に行きたい」と無性に思った。観光をちょっとだけ擬似体験させて「あぁそこにホントに行ってみたい」と思わせるのが「観光小説」だ。
上に書いた通り、舞台は高知県。県庁の観光部に新しくできた「おもてなし課」を中心に物語は回る。主人公はそこの課員の掛水史貴。入庁3年目の25歳。課の中では一番若い。観光客に「おもてなし」する心で県の観光を盛り立てようという「おもてなし課」は、手始めに掛水の発案で「観光特使」の制度をつくった。
掛水の発案、と言えば聞こえがいいが、「そういう自治体が多くあるようですよ」という程度のもの。進め方も何も手探りで、心許ないことこの上ない。案の定、観光特使の一人の作家の吉門喬介から、実効性があるの?何を目指してるの?他所との違いは?とダメ出しを連発されてしまう。
物語は、このように最初はグダグダだった「おもてなし課」が、掛水の意気込みが他の課員にも伝染するような形で、徐々に「使える集団」になっていく様子を描く。もちろん、著者が描くのだからラブストーリーがしっかり組み込まれている。今回のは甘さはちょっと控えめ。ただし、直球と変化球の2つを投げてきた。
楽しめた。ご存じの方も多いかもしれないけれど、「おもてなし課」は高知県に実在する。それでもって高知県出身の著者は、観光特使になっている。つまり、作家の吉門(の一部分)は著者の分身で、彼が出したダメ出しは、実際に著者が感じたものらしい。そのあたりのリアリティが、本書の面白さにつながっている。また、著者は本書を書いたことで、観光特使としての任務を充分に果たしたことだろう。
それから「三匹のおっさん」以来、著者の「おっさん萌え」がチラチラ作品に顔を出すのだけれど、本書のおっさんは、とりわけカッコいいのが1人いる。あこがれはしても目指そうとは思わないくらいだ。でも、そこまで目立たないんだけれど、おもてなし課の課長が、私は好きだ。
ちなみに、本書の印税は全額、東北地方太平洋沖地震の被災地に寄付されるそうです。
参照:有川日記 それぞれにできること(随時追記)
このあとは、書評ではなく、本書を読んで思った、長~~い由なし言です。お付き合いいただける方は、どうぞ。
この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。
※(2013.4.1 追記)
5月11日公開で映画が公開されます。キャストは、錦戸亮さん、堀北真希さん、高良健吾さん...です。
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この物語を楽しんだことは間違いないのですが、一方でわだかまりを覚えたのも事実なんです。「あぁまたか」という気持ちが、読んでいて早くからしていました。それは「お役所はダメ、民間を見倣え」という考えや主張です。テレビで「こんなこと民間だったら許されませんよ!」という声を聞くことが時々ありますが、その時に感じるのと似た気持ちです。
単純に役所の仕事のやり方を擁護するつもりは全くありません。もっと複雑な気持ちを感じてしまうんです。私は、10年間民間のコンピュータ会社に勤めた後、自治体が運営するIT関連の施設に転職しました。今はそこの責任者になっています。
民間企業の経験があり、今も公務員ではなく民間法人の職員です。でも、仕事の進め方は役所の流儀で進めなければならない。両方の価値観が分かっている、と言えば聞こえがいいですが、実際には両方の価値観で又裂きのようになっています。役所の仕事の進め方に辟易している部分と、「民間だったら...」という声に無責任さを感じる部分とで。
まず辟易している部分から。例えば、昨年iPadを買おうとしました。私の街にはiPadを売っている電気店がなく、ニュースで盛んにやっているのに、手に取って見ることもできない。市民からの質問も来るようになって、展示と説明用に1台必要だと思ったのです。
しかし、私は施設の責任者ですが、予算支出の裁量があまりありません。私が決裁できるのは単価8000円までなんです。そのために約5万円のiPadを買うのに、商品情報や今後の利用計画などの資料を用意して、然るべき人のところへ何度か通わなくてはなりませんでした。組織の中向けに必要な説明や資料が多すぎるんです。また、意思決定する人が現場から遠すぎるんです。
「民間だったら...」という声について。これには2つの思いがあります。1つ目は「民間」だって色々でしょ、ということ。対応の早い会社、いつまでも返事が返ってこない会社。役所との対比として使いやすい言葉であるのは分かるけれど、不正確というか乱暴な感じがするんです。「民間だったら許されませんよ!」と聞いたうちの何回かは、「そうかなぁ、そんな会社けっこうあるけれど」と思ってしまうのです。
1つ目は、私の感じ方に過ぎないし、些細なことだと自覚しています。でも2つ目は、もう少し議論されてもいいんじゃないか?と思っています。それは「お役所仕事」になるのはどうしてか?ということです。公務員って結構優秀な人が多いです。私が知っている役場の職員から中央官庁の官僚までを眺めてそう思います。それなのに、どうしてダメな仕事になってしまうんでしょうか?
私はそれは、役所を相反する2種類の基準で評価し、要求するからだと思うんです。ダブルスタンダードですね。例えば本書の中で、「平等」に拘って特長がなくなったと苦笑される例がありますが、別のところでは委託業者の選定でコンペが行われなかったとクレームがついています。また「公の施設なんて大盤振舞で(儲からなくて)いい」という意味の部分がありますが、赤字施設に対して「民間だったら許されませんよ!」の言葉が浴びせられることもあります。民主党の事業仕分けで「日本科学未来館」の毛利館長に対して、「毛利さんがやっても赤字なんですか?」と、蓮舫議員が発言したのは記憶に新しい(いや新しくはないか?)です。
つまり、特定の個人や団体に偏ることがないようにする「公平さ」と、それを担保するための「手続き」を求めながら、効果的な政策を打つための「特長」と、意思決定の「臨機応変さ」も求めている。また「儲けちゃいけない(もともと儲かるような仕事はあまりないんだけれど)」と言いながら、「費用対効果」と言う名の「採算性」を求める。さらに、「1円でも安く」支出を切り詰めるように求めながら、「地域経済に貢献」することも求める。
「いやいや、この部分はこうで別の部分ではこうなんだ、役所のやってることはそれが反対になってる」という声が聞こえてきそうです。でも、どこはどうすればいいのかは、聞いても答える人によって変わってくるでしょう。実際に私のいる施設では、これらのことを全部言われています。中には「公平さ」と「特長」、「手続き」と「臨機応変さ」を、同じ人が言ってきたこともあるぐらいで、時によっても変わるのかもしれない。
繰り返しになりますが、私は単純に役所の仕事のやり方を擁護するつもりは全くありません。改善すべきことはたくさんあると思うし、上に挙げた相反する2つの要求を満足させる落としどころは、きっとあると思います。ただ、ダメだダメだと言われてもなかなか難しい、という事は言っておいてあげたい(私自身は公務員ではないので)のです。
読んだことの無い著者ですが、面白そう・・と思いました。
そして、「由なし事」で、おっしゃっていることに、ぼくなりに考えさせられました。
そうですか、8000円ですか。ぼくがお役所仕事にかかわっていた30年前と、ハンコの威力は変らないようですね。
お役所仕事は、石垣のようなものと思います。邪魔だからといって、簡単に崩せるようなものではないけれど、イライラして小さい石を引っこ抜いたら、全部、崩れてしまったりしますね。
とにかく「民間活力」などで、たやすく積みなおせるような、簡単なものではないようです。
じゅんちゃんさん、コメントありがとうございます。
著者の有川浩さんは、ラブストーリーや爽やかな青春小説を書かれる
作家さんです。読者は若い人が中心だと思いますが、私のように
40~50代ぐらいまで幅広く人気のあります。
じゅんちゃんさんのお眼鏡に適うかどうか分かりません。
しかし、読まれたら新鮮な感じがするんじゃないでしょうか。
お役所と関わりがあったそうですから、面白いかもしれません。
由なし言にまでお付き合いいただいて、ありがとうございます。
「石垣」という表現は、当を得ていますね。しっかりと組み合わさって
びくとも動かないこともあれば、メンテナンスされていなくて
崩れかかっていることもあるし。
書籍「県庁おもてなし課」うまくいかなくても、その方向さえ向いていればいつか。
「県庁おもてなし課」★★★★
有川 浩 著 ,
講談社文庫、2011/3/31、初版
( 461ページ , 1600円)
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「タイトルが面白いなと読み始めた、
この作…
「県庁おもてなし課」 有川 浩
「県庁おもてなし課」は、高知県の観光事業の一環として発足した部署の、奮闘を描いた物語。
ちくしょう、読んだら高知に行きたくなっちゃったよ。
しかし、何をするにも「お役所意識」が抜けず、見切り発車で指導した観光特使に名刺を配ってもらう企画は難航する。そんな折、主人公・掛水は特使を引き受けた作家・吉門喬介から辛辣な言葉を浴びせられる。
しかし、彼のアイデアと郷土愛をたよりにアドバイザーを依頼するが、吉門の条件は「民間感覚」をもつ女性スタッフの採用と20数年前、大胆な観光プラン「パンダ誘致論」の…
県庁おもてなし課
マンガっぽい甘いラブコメが印象的な有川サン。
新刊が出てるの知らなくて、たまたま本屋で見つけてしまいました。
この表紙の雰囲気はちょっと好みじゃないけど、控えめなタイトルの配置はよい。
そして読み始めるとタイトルどおりの内容。
高知県が新しく作った「おもてなし課」。
その思い切ったネーミングのことは聞いたことがある。
けど、よくある観光課っていうのの名前をちょっと今風にしただけなんだろうって思ってた。
つまり実際にある高知県のおもてなし課を描いた小説。
主人公は「おもてなし課…
県庁おもてなし課 / 有川浩
ふつーに、面白かった。地方を題材にしてても(戦闘ものでなくても)、やっぱり有川さん本だった。
でも、なんだろう…という気持ちでいっぱい。
YO-SHIさん こんばんは。
TBありがとうございました。
YO-SHIさんの続きの部分もよくわかります…。
今回、私はこの本をすごく斜にかまえて読んでしまって、面白かったけど、しっくりこなかったんです。
民間とか公務員とかもそうですが、一つの括りをまとめすぎていて一面だけがすべて、と思えてしまったんですね…。
ささいなことにひっかかりすぎたのかな。ちょっと複雑な気持ちになりました。
たかこさん、コメントありがとうございました。
たかこさんのひっかかりは、わたしも感じました。
民間と役所という対比も、個々の人物造形も紋切型のところがあるし、
正しければ何言ってもいいのか?って感じる場面もありました。
紋切型というと印象が悪いですが、分かりやすい、とも言えます。
有川さんの作品では出来過ぎなぐらい良い人が、出来過ぎなセリフを
吐くことが少なからずあり、鼻白むこともあるのですが、
分かりやすいので人気のもとにもなっているのでしょう。
結果的に私は、分かりやすさを受け入れて楽しめたのですが、
たかこさんは、そうならなかったのですね。ちょっとした違い
かもしれませんね。
元行政職員です。
YO-SHIさんの感想を読ませていただき、
少し安心しました。
私は有川さんの本は好きです。
ただ、今回は残念でした。
官と民の対立が定番すぎて、
あぁまたか、と思いました。
理由はYO-SHIさんと同じです。
いつか、かっこいい公務員が登場する
ラブコメを読める日が来るといいな、
と思います。
さーしゃさん、コメントありがとうございます。
元行政職員さんですか。その当時はつらい思いもなさったでしょう。
テレビ局は、人を傷つけないようにとか、クレームを受けないようにとかの
理由で、特定の集団を不用意に悪く言ったりしないのに、なぜか公務員と
役所には言いたい放題ですからね。
この本については、有川さんの実体験がかなり含まれているそうなので、
偏見とは言えないのですが、官対民のパターンに乗っかった感はありますね。
おもてなしの仕事
小説「県庁おもてなし課」を読みました。
著者は 有川 浩
県庁、公務員たちを主人公に
いわいる観光課たちの奮闘劇
まず 題材が面白く
観光を盛り上げるには? というね
けっこう実話もあるらしくて・・・
いい意味でクセがなく
読みやすいですね
最初はダメタメから……