著 者:香山リカ
出版社:講談社
出版日:2011年4月20日
評 価:☆☆☆(説明)
著者は、テレビ出演も多いが、書籍や雑誌、新聞などの紙媒体でも度々お目にかかる。それらを読んで、私は「その通りだ」と思うことが多い。「なるほどそうか」という「気付き」もある。「ネット王子とケータイ姫」「しがみつかない生き方」を読んだ時もそうだった。
本書の帯に多くのメッセージが踊る。「私を、日本をあきらめないために」「混迷する社会をどう生きるか」「精神科医からの緊急提言」「支え合う心、守るべき命、未曾有の出来事を乗り越えるためにできること」。「あとがき」によると、本書は昨年から執筆を始めて、途中で一時凍結の時期があって、震災によって再びの凍結を経て、出版に至ったそうだ。帯のメッセージは、「震災後」を意識して発信されたものなのだろう。
前半は、日本の「国家、社会全体が「うつ病」にかかっている」という見立てを出発点として、経済、若者、親世代、高齢者の問題を順に論じる。デフレだから「うつ」になり、「うつ」だからデフレを起こす。原因と結果がグルグル回ってしまって、出口が見えない。しかも、若者、親世代、高齢者のそれぞが構造的な「不安」を抱えている。タイトルの「<不安な時代>の精神病理」は、こうしたことを言い表している。
個人の「うつ病」の治療には「まず仕事を2ヶ月休んで..」という休養が欠かせない。しかし、あれだけの災厄を被っても、直接の被災地域以外は、企業も学校も休みにならず、週明けにはいつも通り株式市場が開いた。つまり「休めない」。この震災で著者は、底知れぬ力と共に、言い知れぬ恐ろしさを感じたそうだ。
被災地の人々の「さぁ復興だ」という力強い声を聞けば、私たちは励まされるし、マスコミも前向きに伝え、世界からは賛辞が届く。それも、著者の目には、危ういものに見えるのかもしれない。
後半は、「人の営み」の例としての精神医学の世界と、市場主義経済との相互関連を論じる。これはこれで見逃せないすごい事が書いてある。しかし、前半とのつながりや帯のメッセージとの関連が分かりにくく、出発点を忘れ、着地点を見失いそうになった。
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こんばんは(*^_^*)
香山リカさん
テレビでお話を聞いたり、新聞でコラムを読んだりする事はあっても
一冊じっくり読んだ事はなかったです
良い機会なので読んで見ます(*^_^*)
十六夜さん、コメントありがとうございます。
ご興味を持たれたなら、是非読んでみてください。
ただこの本は、記事にも書きましたが、後半はちょっとまとまりがないですね。
私は「ネット王子とケータイ姫」「しがみつかない生き方」の方がよかったです。
一冊じっくり読むってことは大切だと思います。誰かの考えを知るには特に。
私自身が経験したことなんですが、テレビって編集によって、話したことと
180度違う内容で伝えられることもあります。インタビューを受けた本人さえ
放送前には放送内容のビデオを見せてもらえないし。だから信用してないんです。
香山リカは『リカちゃんのサイコのお部屋』の頃から時々読んでいます。最近は粗製濫造気味だと感じますが、香山氏はバブル時代に青春を送った方なので、現在にかなりの危機感を抱いているのだろうと思います。
『愛国問答』にしても、その時代時代に必要な処方箋をすぐに出しておこう、という姿勢には、精神科医としての良心を感じます。
敦さん、コメントありがとうございます。
粗製濫造気味なのは、一定数の売上が見込めるという、出版社の事情ももちろんですが、
香山さんの執筆の動機にも一因がありそうです。「しがみつかない..」にこう書かれていました。
「いまの社会を精神科医として見渡して思いついたことを、何とかして人に伝えたい。せっかく
だからこれをみんなに言ってみようかな」
「みんなに言ってみようかな」ということが多いんでしょうね。この頃は。
「思いつき」のレベルの話でもあるので、ちょっと変なのも混じってくるんですが、大筋では
いいこと言ってるように思います。