泳ぐのに、安全でも適切でもありません

著 者:江國香織
出版社:集英社
出版日:2002年3月10日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 It’s not safe or suitable for swim. 本書は10編が収録された短編集。冒頭の英文は、本書と収録された最初の短編のタイトルの英語表記だ。これは、著者がアメリカを旅行した時に見た立て看板に書いてあったそうで、さらに言えば、短編の中で主人公の女性が、そのような看板を「私たちみんなの人生に、立てておいてほしい」と思った言葉だ。

 「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」そう、人生は安全ではない。多くの人は適切でもない人生を送っている。こんな看板で、人生の折々に注意を促してもらえば、しなくて済んだ失敗もあるだろう。

 本書に登場する主人公は全員が女性で、彼女たちも安全でも適切でもない(と思われる)人生を送っている。不倫をしていたり、働かない男との同棲中であったり、夫が家にいなかったりしている。幸せな結婚生活だけが適切だというつもりはない。しかし、彼女たちの選択や置かれた状況も適切だとは思えない。

 ところが、著者による「あとがき」には、「愛にだけは躊躇わない-あるいは躊躇わなかった-女たちの物語になりました。(中略)彼女たちが蜜のような一瞬を確かに生きた..」とある。
 不倫や働かない男との同棲などの辛い愛の形を選んだ、彼女たちの選択が適切でないと、私は思ったのだけれど、どうもそうではないらしい。人生は泳ぐ(生きる)のに安全でも適切でもないのだから、長期展望ではなくその「瞬間」を信じて生きたい。そうした生き方の現れが、彼女たちの選択らしい。そう言えば、彼女たちに「後悔」は感じられなかった。

 この捉え方の違いは、私が男だからだろうか?女性の感想を聞いてみたい。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

4つのコメントが “泳ぐのに、安全でも適切でもありません”にありました

  1. 観・読・聴・験 備忘録

    『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』

    江國香織 『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』(集英社文庫)、読了。
    思いのほかエロティックな作品集であったことに若干の驚き。
    いずれも短い作品なのに、
    それぞれの世界観が数ページ読んだ……

  2. たかこの記憶領域

    泳ぐのに、安全でも適切でもありません / 江國香織

    本、本がない…。
    本屋に行けばいくらでもあるけれど、図書館派の私にとって書庫整理のための休館はつらい。しかも勤務先の大学図書館も入試のために閉館…。休館前に図書館に行 …

  3. たかこ

    YO-SHIさん こんにちは。
    読まれたのですね。
    私とはもちろんとらえ方が違うような感じがしますが、いかがでしたか?

    私はこの本の話そのものよりもあとがきが大好きです。
    江國さんのファンだからかもしれません。
    今までの人生の中であれこれあったわけではないですが、
    「SAFE でも SUITABLE でもない人生で、長期展望にどんな意味があるのでしょうか。」
    という一文に救われたのも事実です。
    女性が自信を持って生きていくために?たくさんの人に読んで欲しい一冊だと思ってます ^_^

  4. YO-SHI

    たかこさん、コメントありがとうございます。

    私がこの本を読んだ直接のきっかけは、たかこさんがブログの
    2011年のまとめの記事で取り上げておられたからなんですよ!

    この本のあとがきは、私も好きです。「泳ぐのに、安全でも
    適切でもない」という言葉がしみいるような文章で、
    この本は、あとがきまでを含めて1つの作品のようですね。

    ただ物語の方は、あまりに男に都合が良過ぎるように
    思いました。不倫とか働かない男とか。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です