脳はすすんでだまされたがる

著 者:スティーブン・L・マクニック、スサナ・マルティネス=コンデ、サンドラ・ブレイクスリー 訳:鍛原多惠子
出版社:角川書店インターシフト
出版日:2012年3月31日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 新聞の書評欄に載っていて、面白そうだったので読んでみた。
 本書の原題は「Sleights of Mind」。「Sleight of hand」が、クロースアップマジックのような手品だそうで、恐らくはこれにひっかけた造語だろう。本書は、私たちがマジックに騙されてしまうわけを、神経科学的に解き明かそうとする本だ。

 著者は3人いて、サンドラは脳科学専門のサイエンスライターで、以前に読んだ「脳の中の身体地図」の著者。スティーブンとスサナの2人は、バロー神経学研究所のそれぞれ別の研究室の室長。この2人は本書の執筆に先立って、この研究のためにマジシャンに弟子入りしてマジックを学び、オーディションまで受けている。そして本人たちが学んだり、一流のプロマジシャンを取材して分かったマジックについて、慎重にタネ明かししながら、それを見た時に私たちの脳で起きていることを教えてくれる。

 例えば私たちは、目には映っているのに「見えない」ことがある。私たちの脳は、注目した場所に集中して、周辺部分は処理精度を抑制してしまうからだ。逆に実際には存在しないものが「見える」こともある。私たちの脳は情報が足りないと、辻褄合わせのように勝手に補ってしまうからだ。だから、手に持ったコインを堂々とポケットに入れても「見えない」し、放り投げるマネだけしたコインが「見える」

 ご法度のはずの種明かしが本書には数多くあって、こんなことして大丈夫なのか?と思ったが、それは杞憂だったと分かる。マジシャンは、話法やしぐさや視線などの修練を積んだ技によって、私たちの脳に、無いものを見せあるものを隠すのだ。タネが分かったとしても、やっぱリ欺かれてしまう(脳が勝手に見たり見なかったりしてしまうのだから)。ましてやマネなんてすぐにはできっこない。

 例えば「アンビシャスカード」という、あるカードが何度でも一番上にくるマジックがあるが、本書でそのタネが明かされている。「できるようになればカッコいいかな?」と思って、本書に興味が湧いた人もいるだろうけれど、この本を読んでできるようなる保証はない。実は私は、数年前に結構な金額でマジックの本を買って、「アンビシャスカード」を練習したことがある。...未だに、他人様に披露できるようにはならない。

 考えてみればマジックと神経科学は、同じものを表と裏から見ているようなものだ。神経科学の研究の説明は、少し難解さを免れない部分があって、ちょっと手こずるかもしれない。しかし、マジックのタネも教えてもらえるし、私たちを欺く仕組みも分かって面白い。興味のある方はどうぞ。

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