海の底

著 者:有川浩
出版社:幻冬舎
出版日:2009年4月25日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者のデビュー3作目。そして「塩の街」「空の中」に続く自衛隊三部作の最後の作品。「空の中」のレビューで使った言葉をもう一度。「こんな大作だとは思ってなかった」

 舞台は横須賀。米軍基地があり、海上自衛隊の施設もある。主人公は、潜水艦「きりしお」の乗員で、実習幹部の自衛官の夏木と冬原。ある日「きりしお」に突然の出航命令が下るが、何かが挟まってスクリューが回らない。出航をあきらめ艦の外を見ると、信じがたい光景が広がっていた。無数の人間大の巨大なザリガニが上陸して...人を食っていた。

 本書は、この異常事態の中での2つの物語を描く。1つ目は、夏木と冬原の物語。他の乗員たちは艦外へ脱出したが、「きりしお」の近くで孤立していた子どもたちの救助に当たった夏木と冬原の2人は、避難のために子どもたちを艦内に収容。そのまま潜水艦に閉じ込められた形の夏木らと子どもたちを描く。

 2つ目は、横須賀の街の防衛にあたった警察に焦点を当てる。こちらの主人公は、神奈川県警警備課の明石警部。巨大なザリガニの襲来という、警察が想定する事案を遥かに超える事態に対して、懸命の文字通りに身体を張った防衛線を守る。

 「巨大なザリガニが襲来して人を食う」というショッキング出来事で幕が開ける。とてもグロテスクに思うかもしれないし、荒唐無稽さに鼻白んでしまうかもしれない。いずれにしても、少し引き加減になるが、それから始まるドラマが、もう一度読者を物語に引きつける。

 未知の生物に蹂躙される異常事態の中に、不器用な自衛隊員と気丈な女子高生を放り込む一方で、自衛隊はもちろん警察からもカッコいいおっさんを登場させる。かなり際どい話題に切り込むところも含めて、3作目にしてこんな濃い作品を出していたとは。後の著者の作品の要素が凝縮されている。

 コンプリート達成!(アンソロジー以外の書籍化された作品)
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2つのコメントが “海の底”にありました

  1. 日々の書付

    「海の底」 有川 浩

    有川浩先生の「海の底」を読みました。
    海自の話と聞いていたけれど、ホラーな出だしに
    びっくりw( ̄Д ̄;)。
    突然の凶行に立ち向かう陸側と、に取り残された子供たちと自衛官との潜水艦の中。2つの場面が交錯しながら描かれていきます。
    海の底から現れた巨大エビ・レガリス。
    桜祭りの横須賀港で次々と人を食らう巨大エビ・レガリス。
    巨大化した甲殻類、人間は格好の生き餌と化してゆく。
    一見、荒唐無稽のホラーに見えますが、巨大甲殻類の正体や
    その発生などは科学的な説明がなされています。
    深海…

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