色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

書影

著 者:村上春樹
出版社:新潮社
出版日:2013年4月15日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 発売前に50万部も刷られ、発売初日に10万部、3日後には20万部の増刷決定。発行部数はすでに80万部。発売日の深夜の行列をニュースで見て、これは「お祭り」だと思った。 ネット書店で予約して発売日に手に入れた私も、このお祭りに参加したことになるのだろう。

 主人公は、タイトルにもなっている多崎つくる。36歳の独身、鉄道会社で駅舎を設計管理する部署に勤めている。大学2年生の夏休みに、高校時代の「乱れなく調和する共同体のような」親友グループから追放された。

 そのショックは大きく、彼はその後の数か月を「ほとんど死ぬことだけを考えて」生きたが、なんとかそこから抜け出て今に至っている。本書はつくるが、大学2年の夏休みの出来事に、もう一度向き合うために、かつての親友たちを訪ねる(一義的にはそれが「巡礼」なのだろう)道程を描く。

 まず、率直な感想。「物足りない」。言葉の選択とかリズムとかが良いのだろう。読むこと自体が心地いい。だから先へ先へと読みたくなる。そしてどんどん読める。これはスゴイことだと思う。ただ言い換えれば、大きな引っ掛かりもヤマもない。平坦な道のりを気持ちよく歩いてゴール、そんな感じ。

 次に、著者の過去の作品との関連で、分析的なことを。当たり前だけれど「らしい」ところと「らしくない」ところがある。音楽がストーリーと深く関わっていること、主人公を「導く」女性が登場することなどは「らしい」ところだ。

 「らしくない」のは、人智を超えた不思議な出来事がなく、「1Q84」のリトルピープルのような正体不明のモノ(「考える人」のロングインタビューで、著者は「地下から這い出してくるやつ」と表現している)も出てこないこと。(読者が想像すれば、それを感じることはできる)。

 つまり、本書は「ノルウェイの森」と同じく、著者としては珍しいリアリズムの手法で書かれた作品だということだ。「ノルウェイの森」については、上述のロングインタビューで、著者自身が「本来の自分のラインにない小説」「(こういうのは)もう十分だと思った」とおっしゃっているのだけれど...

(2013.4.18 追記)
この物語を深読みした、深読み「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」という記事を書きました。

 この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。

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