著 者:三浦しをん
出版社:集英社
出版日:2013年10月25日 第1刷
評 価:☆☆☆(説明)

 本書は、2006~2007年に「小説すばる」に掲載された作品を、2008年に単行本として刊行し、さらにそれを文庫化したもの。

 巻末の吉田篤弘さんによる解説にの冒頭に、「さて、読み終えた皆様、まずは声を揃えて「まいったなぁ」と言い合いましょう」とある。吉田さんの意図とは若干意味合いが違ったが、読み終えた後の私の第一声はまさに「まいったなぁ」だった。

 著者の三浦しをんさんは私の大好きな作家さんで、最近のものに偏っているけれど、小説とエッセイを合わせて十数冊の作品を読んだ。そのほとんどが「明るく前向き」な空気が包んでいたので、そんな物語を想像していた。人間の内面をこんなに黒々と見せる作品だったとは..。

 章ごとに主人公が何人か入れ替わる。1人目は、美浜島という人口271人の島に住む中学生の信之。信之が主人公の第一章は、島ののどかな景色と暮らしから始まる。しかしその島を大きな災害が襲う。それは島の住人のほとんどの命を奪うほどの荒々しいものだった。

 その災害のさ中にもう一つの事件が起きる。信之は同級生の美花を助けるために、「そいつを殺して」という声にしたがって人を殺めてしまう。島を襲った災害とこの事件とは、信之から確実に何かを失わせてしまった。

 第二章以降はそれから20年後の物語。信之の妻の南海子(なみこ)と、信之の美浜島時代の年下の幼馴染の輔(たすく)、それから信之の3人が入れ替わりで主人公となる。災害と事件は信之らの人生を変えてしまっただけでなく、その後の人生にまで重くのしかかる。

 数多くの「悪意」が描かれる。信之や輔の「悪意」も描かれるが、それは「敬慕」やら「憐憫」やらが入り組んだ「屈折」を伴うもので、100%の「悪意」とは違う。しかし、それが折り重なることで、100%の「悪意」よりもさらに醜悪な姿を見せる。

 出版社のWebサイトに、単行本刊行時のインタビューが載っている。「何作か明るい作品が続いていたので、"当然、そうじゃない部分も当然あるよ"と作品という形でお見せできてよかったです。」とのことだ。

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