パラダイス・ロスト

著 者:柳広司
出版社:角川書店
出版日:2012年3月31日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「ジョーカー・ゲーム」「ダブル・ジョーカー」の続編。大日本帝国陸軍に設立されたスパイ養成学校、通称「D機関」のスパイを描くシリーズの3作目。シリーズとしては現在のところ本書が最新刊。表題作の「失楽園(パラダイス・ロスト)」と、「帰還」「追跡」「暗号名ケルベロス」の全部で4編の短編を収録。

 「失楽園」は、シンガポールに領事館付武官として赴任した米海軍士官の物語。欧州と中国での戦争の影はシンガポールにはまだ落ちていない。美しい街並みと贅を凝らしたホテルの暮らしは、まさに楽園(パラダイス)。そこで英国人の実業家が不慮の死を遂げた事件。

 「追跡」の主人公は、英国タイムズ紙の極東特派員。D機関を統率する結城中佐の実像に迫ろうとするが、些細な情報さえ容易には得られなかった。それでも調査を続け「特ダネ」をつかみ取った。しかし...という話。その実像に迫ろうとすればするほど、「魔王」と呼ばれる結城中佐のカリスマ性と神秘性が際立つ。

 「誤算」は、ドイツに占領されたパリが舞台。日本からの留学生がドイツ兵とトラブルを起こし、現地の若者らに助けられる。しかしその留学生は記憶を失っていた。「暗号名ケルベロス」は、まだ中立を保っていた米国から日本への航路を進む豪華客船が舞台。D機関のスパイと英国のスパイの対決。

 本書もこれまでの2冊に劣らず面白かった。特筆すべきは「失楽園」と「追跡」の主人公が、D機関のスパイではないことだ。「追跡」に至っては登場さえしない。しかし、紛れもなくこの2編はD機関の物語だと感じる。いや、他の2編よりもくっきりとD機関のあり方が感じられるぐらいだ。こういう描き方がとてもうまいと思う。

※「ジョーカー・ゲーム」が亀梨和也さん主演で映画化され、2015年公開予定です。
映画「ジョーカー・ゲーム」公式サイト

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パラダイス・ロスト”についてのコメント(1)

  1. 日々の書付

    『パラダイス・ロスト』 柳 広司

    旧日本陸軍のスパイ組織・D機関の活躍を描いた『ジョーカー・ゲーム』シリーズ第三弾『パラダイス・ロスト』。スパイたちの繰り広げる頭脳戦は、読むたびに痛快で、ハラハラドキドキさせられます。
    ・誤算…

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