著 者:ジョーン・G・ロビンソン 訳:松野正子
出版社:岩波書店
出版日:2014年5月15日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
現在公開中のスタジオジブリの映画「思い出のマーニー」の原作。映画の方は「もし評判が良ければ..」ぐらいなんだけれど、原作は読んでみようと思って手に取って見た。手元に届いて意外に思ったのは、400ページのけっこう厚い本だったこと。勝手な思い込みでだけれど、もう少し薄い本を想像していた。
主人公はアンナという名の少女。もっと幼いころに両親を亡くし、プレストン夫妻という養父母に育てられた。物語は、喘息の転地療養のために、プレストン夫妻の古い友人であるペグ夫妻の元に、アンナが出発するシーンから始まる。
この冒頭の短い出発のシーンに、アンナが抱えるものが暗示的に描かれている。喘息以外に「やってみようともしない」ことを大人たちが心配していること。普通の子どもたちが考えるような「友だち」とか「一緒に遊ぶ」とかいったことに興味がないこと。自分だけ「外側」にいるように感じていること...。そこには「心の問題」が垣間見える。
ペグ夫妻の元でアンナは、行きたいところに行き、したいことをして暮らす。時に問題を起こすこともあるのだけれど、ペグ夫妻は、全面的にアンナを受け止めてくれる。そんな暮らしの中で、アンナは同じ歳ぐらいの少女マーニーと出会う。物語はこの後、アンナとマーニーの「大人たちには秘密の」面会を繰り返し描き、やがてそれも終わるときが来て...。
マーニーの登場後に、私の頭に常にあったのは「マーニーとは誰なのか?」「そもそも実在するのか?」ということだ。もちろんマーニーはアンナと普通に話をするし、触れることもできる。しかし、その実在を危うくするようなことが、物語のそこここに潜んでいる。
面白かった。アンナがかなり無茶な行いに及ぶので心配になってしまうが、そういった奔放さもこの物語には必要だったのだと思う。「マーニーとは誰なのか?」というミステリーの要素、子どもらしい無邪気さと少しの残酷さ、アンナの回復、そういったことが混然となって物語を引っ張っていく。
最後に。どの版にあるのかどうか分からなけれど、私が読んだ「特装版」には河合隼雄氏による「「思い出のマーニー」を読む」という題の解説が付いていた。物語に「解説」なんて要らないという声もあるだろう。しかしこれは、物語全体に新しい光を当てる素晴らしい解説だと思う。
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はじめまして。
しょっちゅうお邪魔させていただいているのですけれども、
この記事には今まで以上の興味を惹かれたので書き込みします。
びっくりしたのが、
>マーニーの登場後に、私の頭に常にあったのは「マーニーとは誰なのか?」「そもそも実在するのか?」ということだ。もちろんマーニーはアンナと普通に話をするし、触れることもできる。しかし、その実在を危うくするようなことが、物語のそこここに潜んでいる。
これです。
えっ。
そういう話だったんですね。
しかも感想を読ませていただくにあたり、
思っていた以上に深そうです。
しかもしかも、解説が河合隼雄先生だなんて。
うひゃあ。
いいものを見せていただきました。
Y.K.さん、コメントありがとうございます!
このブログをよく見ていただいているそうで、重ねてありがとうございます。
読んでみて、私も思った以上に深い話だな、と思いました。
また、河合隼雄先生の解説は一見の価値ありだと思います。
ぜひお読みいただいて、感想などを聞かせていただければ幸いです。
河合隼雄先生の解説は魅力的ですね。映画の原作はたいてい読むのですが、できるだけ映画の後に読むようにしています。だって絶対原作の方がいいんだもの(笑)。文庫派ですが、これは探して読んでみたいです。
けろろさん、コメントありがとうございます!
「映画もよかった」はあっても「映画の方がよかった」はないですね、確かに。
少し調べたところでは、河合隼雄先生による解説は、この特装版だけのようです。
もし、読まれたら感想などを聞かせてもらえるとうれしいです。