日本に絶望している人のための政治入門

著 者:三浦瑠麗
出版社:講談社
出版日:2015年2月20日 第1刷発行
評 価:☆☆(説明)

 日本に絶望しているわけではないけれど、新聞の広告を見て面白そうに思ったので読んでみた。

 著者は1980年生まれというから30代半ば。東京大学で法学博士号を取り、現職は日本学術振興会特別研究員。「特別研究員」というのは、わが国のトップクラスの優れた若手研究者を養成する制度。だからとても優秀な人なのだろう。専門の研究分野は国際政治学だ。

 まず冒頭に、著者の「政治に関する思想を貫くもの」が書かれている。それは「Compassion(コンパッション)」。「哀れみ」「思いやり」「同情」「共感」と訳されることが多いが、英語のニュアンスは少し違うそうだ。

 残念ながらそのニュアンスは、その後の補足を読んでもよく分からなかったけれど、「共感」が必要だ、という意味なら私もその通りだと思う。本書の帯には「左翼」「右翼」という言葉が躍っているけれど、こういう異なる二つの立場であっても、異なる意見の存在と価値を認めるぐらいの「共感」がなくては、亀裂が深くなるだけだからだ。

 そんなことで冒頭で著者の考えに「共感」を感じたので、その後の論説にも期待をした。政治的な立場はニュートラルなようで、この分野では若手だと思うので、何か清新な意見や提言を聴くことができると思った。ただし、その期待には必ずしも応えてもらえなかった。

 国際政治についての歴史的背景を含めた幅広く深い知識はすごいと思う。しかし、著者の意見のほとんどは、安倍政権の主張をなぞっているに過ぎないように感じるのだ。

 「アベノミクスは過小評価されている」「米国が攻撃された場合に日本が集団的自衛権を発動するのは「当たり前」」というのでは、著者の政治的立場を「ニュートラル」だと感じたことは誤りだったとするしかない。帯に「安倍政治の急所を衝く!」と朱書きされているけれど、これはどの部分のことを言っているのかさっぱり分からない。

 ちょっと気になったのは、「あとがき」にあった「政治家への特殊なアクセス」という言葉。何気なく使ったのだろうけれど「一般人は聞けない話を私は聞ける」という意識が見える。優秀で若い(そして美人の)国際政治学者だから、政財界の様々な人から話を聞く機会が、確かに多くあるのだろう。「自分の意見」と「誰かから聞いた話」の境界は、実は非常に曖昧。本書の論説は、著者を取り巻く人々を反映しているのかもしれない。

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