土漠の花

著 者:月村了衛
出版社:幻冬舎
出版日:2014年9月20日 第1刷 2015年1月15日 第9刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 今年の本屋大賞第5位の作品。

 舞台はソマリアとエチオピアとジプチ共和国の国境地帯。ソマリアは長く無政府状態が続き、氏族間の抗争が絶えず、国土も人心も荒廃していた。物語の主人公たちは、日本の陸上自衛隊第1空挺団の自衛官たち、精鋭中の精鋭だ。

 自衛官がアフリカの地に居るのは、有志連合による「海賊対処行動」に従事するため。スエズ運河-紅海の出口にあたるアデン湾等の「航海の安全の確保」のためだ。ただ今回は、墜落したヘリの捜索救助要請を受けての出動だった。

 今回の任務はあくまでも捜索と生存者の救助。人道支援を目的としたものだった。しかし、そこにソマリアの小氏族の氏族長の娘が救助を求めて駈け込んで来た。隊長が娘の保護を決定したその時、激しい銃撃を受ける...。

 その後はもう怒涛の展開だ。ソマリアにはアフガニスタン等から大量の武器が流れ込んでいて、小氏族の民兵と言えども、その装備は自衛隊の部隊と遜色ない。自衛官たちはたちまち窮地に陥り、応戦しつつ活動拠点への退避を続ける。

 この物語はもちろんフィクションだ。しかしソマリア沖の海賊の対処のために自衛隊が派遣されているのは事実。専門家に言わせれば大小様々な「あり得ない」があるのだろうけれど、私には「あり得る」ことに思えた。だから本当に怖かった。

 日本が安保政策の大転換を行おうとしているこの時期に、こんな物語が世に出たのは、何かの啓示なんじゃないかとさえ思った。帯には「感動と興奮」「号泣小説」「良質なエンターテイメント」なんて言葉が躍っているけれど、そんなんじゃないと思った。本当に怖かった。

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