ゆんでめて

著 者:畠中恵
出版社:新潮社
出版日:2012年12月1日 発行 12月10日 2刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「しゃばけ」 シリーズの第9作。第1作「しゃばけ」、第5作「うそうそ」、前作「ころころろ」に続く4作目の長編(5編の連作短編)作品。しかし今回は、後述するようにとても斬新な構成になっている。

 タイトルの「ゆんでめて」は「弓手(ゆんで)馬手(めて)」で、弓を持つ「左手」と馬の手綱を握る「右手」という意味。本書の冒頭で一太郎が右の道を駆けて行く。本当は左の道を行くはずだった。ここは運命の分かれ道でもあった。

 一太郎は、兄の松之助の子どもの松太郎の祝いの席に居た。松太郎は4歳。元気いっぱいで、そのせいか松之助の店は明るさに満ちていた。ところが一太郎は元気がない。元来が病弱なので珍しいことはないのだけれど、今回は別の理由があった。友でもある妖の「屏風のぞき」が行方不明なのだ。

 こうして始まった後は、いつものようにちょっとした謎解きや、登場人物たちの大騒ぎが、楽しく綴られていく。2編目の「こいやこい」には、可愛らしいお嬢様が5人も登場して、なんとも華やかだし、3編目の「花の下にて合戦したる」は、オールスターキャストの装いで、4編目の「雨の日の客」にも懐かしい人が出てくる。本書は読者サービスの巻かと思う。

 そんな感じで楽しく読めるのだけれど、本書はそれだけでなく、とんでもない大仕掛けが仕掛けられている。冒頭の「兄の松之助の子どもの~」のくだりは、前作まで読んでいる読者が知らないことばかりで、明らかに時間が飛んでいる。実は本書は、短編を読み進めるごとに時間を遡る仕組みになっているのだ。

 「解説」にも書かれていたけれど、著者は各巻ごとに様々な工夫を凝らしている。短編集あり、連作短編集あり、長編もあり、時に主人公を変えてみたり。しかしシリーズ9作目にして、ここまで実験的な試みをするとは驚きだ。しかも「解説」によると、続巻も「括目して待て」とのことで、とても楽しみだ。

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