本当の戦争の話をしよう

著 者:伊勢﨑賢治
出版社:朝日出版社
出版日:2015年1月15日 初版第1刷 2月15日 第2刷発行
評 価:☆☆☆☆☆(説明)

 著者は、国連PKOの幹部として、まず東ティモールに、次はシエラレオネに、さらに日本政府特別代表としてアフガニスタンに派遣されて、それぞれの場所で武装解除の任務にあたった人物。

 「武装解除」というのは、紛争の当事者に武器、特に重火器を手放させること。つまり著者の任務は、最近までドンパチやっていた(場合によってはその最中の)連中の幹部に会って「もうその辺でやめたらどうだ」と説得する役目。並の胆力でできることではない。

 本書はそんな著者が2012年に、福島高校の2年生、この企画に応じた18人の生徒に話した5日間の講義をまとめたもの。「平和」について、世界の紛争の現場、ニュースでは報じられない事情などを、時にユーモアを交えて話す。

 私は、テレビのニュースを見て、新聞を読んで、それに疑問があれば調べてと、「事実」を知る努力をそれなりにしてきたつもりだ。しかし、著者が語る話は驚きの連続だった。

 例えば、紛争の現場では「正義の英雄」と「テロリスト」が容易に入れ替わること。それは国際社会が(多くの場合はアメリカが)、どちらに付くかによること。民主主義国が戦争をする前には、国家がウソをつくこと。

 思ったこと。私たちはよく「日本政府は」とか「アメリカが」とか「アルカイダは」と、国家や組織が人格と意思を持って活動しているように話すし考える。でも突き詰めれば、判断し行動するのは一人の人間なのだ。著者はPKOや政府を代表しているけれど、紛争当事者の幹部とは、お互いに一人の人間として相対することになる。

 注目した言葉。「日本人のYOUが言うんだからしょうがない」著者が武装解除の交渉をしたアフガニスタンの軍閥のリーダーの言葉です。上に書いたこととは矛盾するようだけれど、国家は個人の属性のひとつだ。「戦争をしない日本」の役割、と漫然としたイメージで語られることが、紛争の交渉の場で現実に言葉として結実している。

 最後に。著者が行った武装解除は例外なく完了したが、その地域は例外なく「平和」になっていない。また著者自身が言うように「戦争の現場の経験者だと特別視されがち。でも、実はあまりあてにならない」。だから、著者自身を100%肯定して崇めるのは間違っている(「すげぇ人だな」とは思うけれど、どこか私と相容れないものを感じる)。

 それでも、安倍政権が進める安保法制に賛成する人はもちろん、賛成しない人も、本書を読んで内容を咀嚼してから、もう一度自分の考えを整理して欲しい。だから☆5つ。

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