海うそ

著 者:梨木香歩
出版社:岩波書店
出版日:2014年4月9日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 梨木香歩さんの書き下ろしの近著。一昨年に創業百年を迎えた岩波書店の「創業百年記念文芸」として出版。大自然の中で魂に触れそうな物語。

 舞台は南九州の「遅島」。時代は昭和の初め。主人公は20代半ばの人文地理学の研究者の秋野。秋野は亡くなった主任教授が残した未完了の報告書を見て、遅島に心惹かれてやってきた。遅島は古代に修験道のために開かれた島で、明治初年までは大寺院が存在していた。

 「存在していた」と過去形なのは、明治初期の廃仏毀釈の嵐によって、寺院が徹底的に破壊されたからだ。後に明らかになるけれど、今は礎石などの痕跡が残されているだけだ。この島は「喪失」を抱えている。

 物語は、フィールドワークとして、秋野がかつてあった寺院群を訪ねる山行を描く。実は、秋野も心の内に「喪失」を抱えている。一昨年に許嫁を亡くし、昨年には相次いで両親を亡くしていた。秋野が抱える「喪失」に島の自然が共鳴する。そんな物語だ。

 本書は、この物語に50年後の後日談が続いている。50年の歳月は、物語の雰囲気をガラッと変えてしまう。しかし、そこにさらなる「喪失」を描き、「再生」と「発見」を描くことで、物語世界が大きく広がっている。

 「遅島」は架空の島。冒頭に地図が載っているけれど、その姿は、鹿児島県薩摩川内市の中甑島に似ている。

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