京都ぎらい

書影

著 者:井上章一
出版社:朝日新聞出版
出版日:2015年9月30日 第1刷 2016年2月20日 第9刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 2016年の新書大賞第1位。ちなみに新書大賞は、2015年は「地方消滅」、2014年は「里山資本主義」が第1位になっている。

 著者は京都市右京区に生まれ育ち、京都大学大学院を卒業している。それなのに「京都市に生まれ育ったと、屈託なく言いきることができない」し、東京の人から「京都人」とみなされると困るらしい。どうしてか?

 著者は京都で長く暮らす間中「京都の人じゃない」扱いを受けて来た、言い換えれば蔑まれて来た、というのだ。誰から?「洛中」の人から。本書に「洛中」の定義は書かれていないが、おおむね今の中京区、下京区あたりのことを指していると思われる。

 つまり、著者が生まれた右京区の嵯峨のあたりは田舎で、「京都」を称するなんておこがましいと、「洛中」の人は思っている(らしい)。本書の新書大賞用のカバーには「千年の古都のいやらしさ、ぜんぶ書く」とあるが、たしかに何とも嫌味でいやらしい話だ。

 そんなわけで著者は「京都ぎらい」になった。ただしその気持ちはかなり屈折している。著者も自覚的だと思うけれど、京都という存在の求心力には抗いがたく、その一員たりたいという気持ちがどこかにある。

 本書には「洛中」の人のいやらしい言動がいくつか紹介されている。ただしこのテーマは、本書全体に通底はしているけれど、主には5章あるうちの1章に集約されている。まぁさすがに「古都のいやらしさ」だけを1冊書いたら、それこそ執拗でいやらしすぎる。

 その他の章は、「お坊さんと舞子さん」「京都のお寺」についてのエッセイ風の書きものや、千年の歴史を深堀りしたもので、こちらは興味深い面白い話に仕上がっている。

 「京都のいやらしさ」を好んで読みたがる人が、そんなにいるとは思わないので、「新書大賞第1位」はちょっと不思議な気がする。まぁ面白かったけれど。

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