著 者:辻村深月
出版社:集英社
出版日:2015年5月25日 第1刷 2016年6月6日 第5刷
評 価:☆☆☆☆☆(説明)
「鍵のない夢を見る」で2012年上半期の直木賞を受賞した著者の最新刊。著者の「新たなる代表作」との呼び声も高い作品。
主人公は小説家の小椋真護、30代半ば。物語は彼が、東京會舘のレストランでで、そこの社長と面談するシーンから始まる。「東京會舘を舞台に小説を描く」という希望に協力してもらうためだ。
東京會舘とは、皇居の真向かいに位置する宴会場を主とする建物で、創業は大正11年(1922年)。地震と戦渦を潜り抜けてきた100年近い歴史がある。その間にこの場所が見てきた歴史を描く。そういう構想だ。
プロローグで語られたその構想に従って、本編では東京會舘を舞台とした様々な物語が綴られる。時代を一旦遡って、第一章は、大正12年のヴァイオリン演奏会での出来事。金沢からその演奏会のためにきた青年の物語。その後「上巻」では昭和39年まで「下巻」で現代まで戻ってくる。
すごくよかった。緩やかにつながる10個の物語があって、それぞれを堪能した。それぞれの物語が、珠のように滑らかに優しく光って見える。帯に「全国の書店員、読者から絶賛の嵐!!」と煽り気味の惹句が踊っているが、それも分かる気がする。「これ、本屋大賞じゃないかな?」なんて、まだノミネート作品も決まらないうちから思った。
ちなみに東京會舘は2013年の上半期まで、直木賞の贈呈式と受賞者の会見が行われていた場所。(現在は建替えのため帝国ホテルで行われている)。当然、著者の受賞の時もそこだった。加えて、小説家が主人公に、同業のしかも同年代の人物を据えたのだから、ご本人をいくらか投影した人物であるはず。そういうことを考える楽しみもある。
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