楽園のカンヴァス

著 者:原田マハ
出版社:新潮社
出版日:2012年1月20日 発行 2013年1月15日 21刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 今年の本屋大賞第6位の「暗幕のゲルニカ」の著者による2012年の作品。こちらは山本周五郎賞受賞作で、本屋大賞は第3位だ。著者は、デビュー11年で小説作品が40作あまりという多作な作家だ。その中で「暗幕のゲルニカ」と本書には多くの共通点がある。

 主人公はティム・ブラウン。30歳。ニューヨーク近代美術館(MoMA)のアシスタント・キュレーター。彼の元に上司のチーフ・キュレーター宛の手紙が誤って届く。上司の名前はトム・ブラウン。差出人がタイプミスをしたらしい。その手紙には「アンリ・ルソーの未発見の作品の調査をしてもらいたい」と書いてあった。

 ティムは上司のトムに成りすまして、調査を依頼してきた「伝説のコレクター」の元に駆けつける。そこにはティムと同じように調査を依頼されたもう一人の研究者、オリエ・ハヤカワが居た。二人でそれぞれ真贋の判断と講評を行って、より優れた講評をした方に、「取り扱い権利」を譲渡する。依頼の意図はそういう趣向のゲームへの参加だったのだ。

 これは面白かった。ちなみに私は4月に本屋大賞の予想をした時に、「暗幕のゲルニカ」を「大賞」と予想している。その「暗幕のゲルニカ」とも甲乙をつけ難い。

 「多くの共通点がある」と先に書いた。それは例えば両作品とも、絵画を巡るアートミステリーであること、異なる時代を行き来してストーリーが進むこと、異なる時代は一見すると断絶しているけれど、実はつながりがあること、などなど。そして何よりも読者を絵画の世界に引き込むこと。

 実は、ティムの元に件の手紙が届くのは第二章で、物語のプロローグともいえる第一章が、(当たり前だけれど)それより前にある。そこは、第二章の17年後の日本、早川織絵(オリエ・ハヤカワ)が倉敷の大原美術館で監視員として登場する。そして、ティム・ブラウンはMoMAのチーフ・キュレーターになっている。この第一章の存在が、物語を数段面白くしている。満足。

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