脳・戦争・ナショナリズム

著 者:中野剛志、中野信子、適菜収
出版社:文藝春秋
出版日:2016年1月20日 第1刷発行
評 価:☆☆(説明)

 著者の中野剛志さんは経産省の官僚。2011年に出版した新書「TPP亡国論」はベストセラーになった。中野信子さんは脳科学者。最近メディアへの登場も多い。近著の「サイコパス (文春新書)」は少し話題になった。適菜収さんはニーチェの研究者、哲学者。現代社会をシニカルに評した著書もいくつかあり、私が適菜さんの名前を知ったのは「日本をダメにしたB層の研究」という著書で。

 本書はこの3人による鼎談を収めたもの。テーマは「ナショナリズム」「国家と体制」「ポピュリズム」「暴力」をそれぞれ章建てて論じ、全体としてはサブタイトルにある「近代的人間観の超克」を論じる。

 10時間の討論をまとめたものなので、よく言えば「幅広いテーマの自由な論評」になっていて、悪く言えば「言いっぱなし」。「○○の主張によれば」といった、過去の様々な研究者による言説や研究などが、数多く披露されるのだけれど、出典も参考資料も明らかにされない。

 議論の中に「なるほど」と思うものはある。例えば「ナショナリズム」の元になる「ネイション」の概念について。地域や郷土などに愛着を覚える「パトリア」と違って、様々な異質なものを内包した共同体が「ネイション」それは近代の産物で人工的なものだ、という。

 (多数の意見を尊重する)民主主義を機能させるためには、「自分たちとは異質な共同体のメンバーも同じ国民だ」という概念が必要で、それがまさに「ネイション」だ。そのの概念がない(あるいは浅い)国で民主主義を導入すると、多数を占めた共同体がその他を虐げてしまう。中東の民主化がそんな状態たという。

 このように「なるほど」と思うものはあるのだけれど、私は本書には嫌悪感を感じる。本の価値を「好き嫌い」だけでは評価できない。でも例えば、「ポピュリズム」の章の副題が「なぜバカがはびこるのか」なのだけれど、本書の中では、いろいろな人を馬鹿にする。その見下した感じが嫌いだ。それから「左翼は○○だから」という言い方が多く見られる。それもイヤだ。

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