分解するイギリス 民主主義モデルの漂流

著 者:近藤康史
出版社:筑摩書房
出版日:2017年6月23日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 新聞の書評で知って読んでみた。英国の民主主義に起きた問題について知れば、今の日本の「なんだか気持ち悪い」政治状況を理解する助けになるかもしれない、と思ったからだ。

 順を追って説明する。まず、日本は民主主義のあり方の多くを、英国をモデルとして取り入れてきた。小選挙区制に始まり、マニフェストを掲げた政策本位の選挙を志向した。これによって選挙は「人」ではなく「政党」で選ぶようになった。これらは「政権交代」を実現し、首相のリーダーシップを強化した。

 ところが、モデルとなった英国の民主主義が漂流している。昨年の国民投票によるEU離脱派の勝利は、当時のキャメロン首相はじめ、多くの英国民の予想に反した結果だった。それはひとつの決定ではあるのだけれど、その後も、首相選びが二転三転する、EU離脱賛成反対の分断が深まるなど、政治社会の混乱が続いている。

 著者はこの混乱を、「ポピュリズムの台頭」というよくある文脈で捉えず、民主主義の「分解」として捉える。そして、英国の民主主義が安定していた時代から書き起こして、何が要因となってどうように分解していったかを、精緻な文章で描いていく。

 「いや、そこまで英国の政治状況に詳しくなるつもりはないので、もう少しかいつまんで..」と、正直思った。それは「日本の政治状況を理解する助けに」することを目的に読んでいる私の、勝手な要求なのだけれど。逆を言えば、本書は、コンパクトにしっかりと「英国の民主主義」が書かれた教科書のような本だ。

 でも、私の目的にとても役立つことが書いてあった。それは民主主義制度を「多数決型」と「コンセンサス(合意)型」に分類する考え方だ。言うまでもなく英国は「多数決型」。一人でも数が上回った方に決定権がある。それに対して、コンセンサス型は「なるべく多くの人が納得する選択肢」を選ぶ。

 「多数決型」の良いところは、意思決定が明確で早いこと。悪いところは、多くの「民意」がくみ上げられないこと。「民意」が多様化している現在においては、「くみ上げられない民意の方が多数」という状況さえ起きる。

 英国の制度をモデルとした日本でも、いや「二大政党制」になり損なった日本ではなお顕著に「悪いところ」が出ている。「なんだか気持ち悪い」政治状況の正体はこれかもしれない。

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