奔る合戦屋

著 者:北沢秋
出版社:双葉社
出版日:2011年7月3日第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 ヒット作「哄う合戦屋」の続編。続編と言っても時間軸で見れば「哄う合戦屋」の前の出来事。

 主人公は前作と同じで石堂一徹。時代は戦国時代。物語の始まりは天文2年(1533年)。舞台は村上義清が治める北・東信濃。この頃は、越後は長尾、甲斐は武田、駿河は今川と、大大名が周辺の国を統一されつつあったが、信濃は多数の豪族が自立していた。その中で村上氏の勢力は抜きんでていた。そういう時代。

 一徹は村上家の次席家老を務める石堂家の次男。物語の始まりの時には、まだ19歳だった。ただし、15歳の初陣以来、並外れた武勇と優れた駆け引きとで、この頃には既に「村上家の将来を背負って立つ逸材」と目されていた。

 物語はこの一徹の「並外れた武勇と優れた駆け引き」を余すところなく描く。冒頭の城攻めのシーンで、槍先で騎馬武者を天高く放り上げる姿は「武勇」を絵に描いたようで、退いては押しての戦法で城門を破る策略は「策士」そのもの。本書の中で数回の戦が描かれるが、毎回、胸がすく思いがする。(相手にとっては悪夢のようだけれど)

 一徹の活躍の他にも本書には魅力がある。それは一徹の周辺の人物の機微が描かれていることだ。一徹の妻となった朝日姫、郎党頭の三郎太、郎党の一人である「猿」と呼ばれる少年..主である村上義清も含めて、悩みや感情を持った人間が、物語の中で生きている。

 本書の終わりは天文10年、前作の始まりは天文18年。一徹が村上家に仕えていたことは、前作でも説明され、その時一徹は流浪していたのだ。信濃随一の豪族の元で功成り名遂げた武将が、一人流浪するに至るには、相応の物語があったに違いないと、私は思っていた。こういう物語があったのだ。

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