熱帯

著 者:森見登美彦
出版社:文藝春秋
出版日:2018年11月15日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 森見登美彦さんの最新刊。体調不良による休筆から、2013年に「聖なる怠け者の冒険」で復帰されて、以降「有頂天家族 二代目の帰朝(2015年)」「夜行(2016年)」そして本書と、1年半~2年間隔でコンスタントに新刊が出ている。ファンとしてはそれがうれしい。

 これはかなり奇妙な構造をした物語だ。冒頭部分に「千一夜物語」の説明がある。「千一夜物語」はシャハリヤール王に侍ったシャハラザートが語った寝物語。シャハラザートが語る物語の中の登場人物が、さらに物語を語ったりするので、いわば物語のマトリョーシカみたいな入れ子構造をしている。そして、本書もそうなっている。

 入れ子構造を簡単に説明する。入れ子の一番外側は、森見登美彦さん自身が登場。次の作品の着想が全く浮かばない日常の中で、学生時代に途中まで読んだところで失くしてしまった「熱帯」という本を思い出す。そして別の日に編集者に誘われていった読書会で、「熱帯」を持った女性と出会う。

 入れ子の2番目は、その女性、白石さんの語り。白石さんは勤め先のお客さんである池内さんに誘われて「熱帯」のことを研究する「学団」という集会に参加する。そして「熱帯」を巡るミステリーに巻き込まれる。3番目は、「熱帯」の謎を追って京都に旅立った池内さんから、白石さんに届いたノートに綴られていた物語。4番目は...。

 このような感じで物語は、最初の森見さんの日常から遠くへ遠くへと流れるように展開する。入れ子のかなり内側の物語に、それを研究しているはずの「学団」の人物が登場したり、そもそも本書のタイトルが「熱帯」なので、「学団」が研究しているのは本書なのか?という考えが頭をよぎったり、循環参照的な複雑さを呈している。

 入れ子の何番目かには、「熱帯」という本に記された(らしき)物語が語られる。これがなかなかの奇想文学で、これだけ取り出しても中編作品になったと思う。それが、この複雑な構造の中に、違和感なく収まっている。著者は良いお仕事をしたと思う。

 「複雑な構造」に「読みづらいのでは?」と思う人もいるかもしれないけれど、それは杞憂だ。構造なんて気にしないでドンドン読んでしまえばいい。循環参照になっていても「へぇ~面白いな」と思えばいい。「あれ?これ、そもそもどういう話だっけ?」と我に返ったりしないでいい。コロコロと転がるような展開に、身を任せてしまうと楽しめる。

 そうそう、「吉田山」とか「進々堂」とか、著者のゆかりの場所を知っている人は、そういうのも楽しめる。

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