著 者:柚木麻子
出版社:朝日新聞出版
出版日:2019年4月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)
徹底した明るさとコミカルさの底に深い意味を感じた本。2019年上半期の直木賞候補作。
著者の作品は「ランチのアッコちゃん」「3時のアッコちゃん」「本屋さんのダイアナ」といった、社会人の女性の仕事や悩みをコミカルかつ優しく描いた作品や、「けむたい後輩」「ナイルパーチの女子会」といった女性同士の関係を深々と描いた作品を読んだ。
本書の主人公は70代半ばの女性。これまでに読んだ物語の主人公よずっと年上だ。名前は柏葉正子。20代のころに女優として映画に出ていた。27歳の時に出演映画の監督と結婚し専業主婦に。74歳の時に携帯電話のCMのおばあちゃん役のオーディションを受けて合格。今は日本人なら知らない人はいない「ちえこおばあちゃん」になっている。
ここまではこの物語が始まる前に起きたこと。物語が始まってからはつらいことが繰り返し起きる。映画監督の夫がなくなり、ちょっとした言動が元でネットで炎上して大変な目にあったり、仕事がなくなって食べるものにも困るようになったり、再びおばあちゃん役のオーディションを受けてセクハラにあったり...。
でも、正子さんにはしなやかな強さがあって、その度に逆境を跳ね返す。一人ではできなかったかもしれないけれど、正子さんの周りには、家に転がり込んできた若い娘や、風変わりなご近所さんたちもいた。最初は全然頼りにならない感じなのだけれど、徐々に結束力も増して、正子さん自身の前向きなキャラクターとの相乗効果で、物語は予想の上を行って先へ進む。
面白かった。「マジカルグランマ」は、実際には存在しない「世間が求めるあるべきおばあちゃん」像を指していて、CMの「ちえこおばあちゃん」が正にそうだ。正子さんのしなやかな強さは「マジカルグランマ」からの脱却によってもたらされる。テンポよく弾むように軽い文章で書かれた物語に、意外と深い意味を感じた。
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