傲慢と善良

著 者:辻村深月
出版社:朝日新聞出版
出版日:2019年3月30日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 予想していなかった展開に翻弄されたけれど、読み終わってみれば気持ちがしっかり着地した本。

 二部構成。第一部の主人公は西澤架(かける)。39歳。婚活で知り合って今は一緒に住んでいた婚約者が、ある日突然姿を消した。手がかりは、彼女がストーカー被害にあっていて、相手は彼女の出身地の群馬で知り合った男らしい、ということ。そして第二部は、その姿を消した婚約者の坂庭真実が主人公。この構成は、著者の人気作「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」とよく似ている。

 第一部で架は、真実の行方を捜すために、群馬の真実の実家や、真実が登録していたという結婚相談所を訪ね、真実がお見合いをしたという相手にも会う。警察には相談したが、事件性は低いと判断されてしまった。興信所を使って調べることは、真実の両親に反対された。真実の過去には何かあるのではないか?そう思った架は、自分で調べることにしたのだ。

 架が捜す真実の行方は杳として知れない。しかし、架が分かってきたことはある。真実と家族、特に母親との関係や、真美の周辺の人々のものの考え方などだ。それとは別に、読者にも分かってきたことがある。それは、真実と出会うまでの架の交友関係。第一部は、架と真実が背負う背景が、それぞれ少しずつ明らかになる度に、その溝が深まる。それを越えることはできないんじゃないか?と思うぐらいに。

 急展開の後に第一部が終わって、第二部が始まる。「急展開」と思うのは男性だけで女性なら最初から分かる、という意見もあるけれど、とにかく第二部が始まる。それは心に染み入るような物語だった。帯に「圧倒的な”恋愛”小説」とあるけれど、たしかにこれも”恋愛”の一つの形だろう。

 最後に。このタイトルからジェーン・オースチンの「高慢と偏見」を思い出す人も多いだろう。本書の中でも言及されるし、私は主題が似ていると思う。著者も「高慢と偏見」から想を得た、とインタビューでおっしゃっている

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