帝国の慰安婦

著 者:朴裕河
出版社:朝日新聞出版
出版日:2014年11月30日 第1刷 2015年1月30日 第4刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 いわゆる「慰安婦問題」について、興味がある人は読むといいし、どのような立場であれ発言しようとする人は読むべきだと思った本。

 著者は韓国の世宋大学校日本文学科教授。日本の慶應義塾大学文学部を卒業し、早稲田大学大学院の博士課程を修了。著書や研究で日韓関係について積極的に発言、本書で、アジア・太平洋賞特別賞、石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞を受賞している。ちなみに著者は、本書に先立って同名の書籍を韓国で出版しているが、本書はその翻訳ではなく、著者自身が日本語で書き下ろしたものだ。

 「慰安婦問題」とは、第二次世界大戦中に日本軍が関与し、兵士の性的な相手をした女性たち、特に「朝鮮人慰安婦」に対する人権問題だ。彼女たちは「性奴隷」なのか「売春婦」なのか、「強制連行」だったのか「自発的」だったのか。相反するイメージを持った対立が先鋭化して、解決の糸口が見えない。

 本書はそんな中で、感情や政治的立場を排して、慰安婦自身の声と文献に当たって、事実に忠実にあろうと努めた、孤高の存在と言える。なぜなら著者が言うように「慰安婦問題発生後の研究は発言が(中略)発話者自体が拠って立つ現実政治の姿勢表明になっ」てしまっているからだ。どのようなことを言うにしても「(慰安婦問題を支援するのか否定するのか)どちら側なのか?明確にしろ」という圧力がかかる。

 要約することは難しい。本書を読めば、この問題が大変複雑であり、その複雑さを無視して「性奴隷か売春婦か」「強制はあったのか否か」という、単純化した論争にしてしまったことに、解決の困難さがあることが分かる。要約してはいけないのだ。

 それでも2つだけ。「植民地支配と記憶の戦い」というサブタイトルに関係して。

 一つ目は少女像が象徴し、国連の報告書にも反映されている「慰安婦=強制的に連れていかれた少女」というイメージは誤りだということ。平均年齢が25歳という資料もあり、「自発的」「親に売られた(買ったのは韓国の業者)」というケースもある。でも、これらは韓国の「公的な記憶」の成立過程で、都合が悪いために消し去られてしまっている。

 二つ目。少女だけでないとしても、日本軍による強制がないとしても、その責任が免れるかというと、そうではないこと。なによりも人権を蹂躙したことには変わりない。また、「大日本帝国」と「植民地」という、支配関係の中での出来事であるという文脈から、その「強制性」を検証しなくてはいけない。

 私自身、これまでこの問題をもっと単純化して考えていて、どう受け止めればいいのか分からないことが多い。本書の内容を消化するのに、もう少し時間がかかりそうだ。

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