ケーキの切れない非行少年たち

著 者:宮口幸治
出版社:新潮社
出版日:2019年7月29日 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 いろいろなことが分かったけれど、これはちょっと重たい問題だと思った本。

 発売されたころに新聞や雑誌などでさかんに取り上げられていたので、帯のいびつな円の「三等分」とともに書名は知っていた。きっかけがあって読んでみた。

 著者は、現在は大学の臨床心理系の教授。前歴は、児童精神科医として病院で勤めた後、医療少年院に法務技官として勤務している。本書は、その医療少年院での勤務経験が元になっている。医療少年院というのは、発達障害や知的障害を持ち非行を行った少年たちの「矯正施設」のこと。

 まずケーキの話から。医療少年院で、ある粗暴な言動が目立つ少年の面接で、円を描いて「ここに丸いケーキがあります。3人で食べるとしたらどうやって切りますか?皆が平等になるように切ってください」という問題を出した。すると少年はまずケーキを縦に半分に切って、その後「う~ん」と悩みながら固まってしまった、というエピソード。タイトルが「~非行少年たち」と複数になっているように、こうした少年(少女も含む)は、医療少年院に大勢いるらしい。

 ケーキが切れない理由は何かと、これの何が問題なのかと言うと「少年たちは、こんな簡単なことも分からない。ちゃんとした教育を受けられなかったこと」ではなく、ましてや「ケーキを切ってもらうような家庭環境になかったこと」なんかではない。(タイトルだけを見て考えると、こんなことを思う人もいそうだけど)

 ケーキが切れない理由は「認知機能に問題がある」からなのだ。そして問題は「この少年たちへのこれまでの支援が役に立たない」ということ。これまでの支援というのは「認知行動療法」と言って、ワークブックなどで思考の歪みを修正して対人関係スキルなどを改善するもの。しかし「認知機能」に問題があれば効果は期待できない。この点については著者からの解決策の提示がある。

 さらに発展した問題。医療少年院や児童精神科に来た少年たちは「発見された」わけで、まだ発見されていない少年たちが存在する。「認知機能」に問題があると、簡単な問題が解けない。想像ができないので、他人の気持ちがわからない。先のことを考えられないので、目標を立てられないし、それに向かって努力もできない。そんな子どもは、本来は支援を必要としているのに、「困った子」「悪い子」と思われている可能性が高い。そして「少年」はいつか「大人」になる

 正直に言って、どう消化していいのか分からない。今は「知ること」で第一歩だと思うしかない。

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